選択をどうする?

何気なくメジャーリーグを観ていたある日、息子に伝えました。「大谷君、産休でいないみたい。」「へえ。三球だけ投げていなくなったんだ。」ちがうちがう、サンキュウ違いじゃ!大谷君、確かに二刀流で今年は投手としても復活するけど、まだ投げてないわ!大体三球で交代ってどんなシチュエーションやねん!!親子揃って同音異義語に弱いなと笑ってしまいました。「お子さんが生まれるから、今日はお休みなんだって。」ああそうなんだと納得した様子。私が小学2年生の時、担任の先生が産休に入ることを知り、姉に伝えた時のこと。「先生3級なんだって。」「もしかして、1級2級とかの3級だと思ってる?」「え?違うの?!」「ばっかじゃないの!そろばんじゃないんだから!お子さんが生まれるんだよ。」と散々突っ込まれたことを思い出しました。そして今日、またドジャース戦を観ながら、なぜか少し前のヤクルト戦の話になって。「そういえば、小川投手ってこの間完封で勝ち投手になったね。100球未満での完封ってなんて言うんだっけ?」と息子。「あ~、なんだったかな?マトリックス?!いや違うな、それは映画だし。」と頭の中で主演のキアヌ・リーブスが出てきて。「あ!マダックスだ!」と彼が思い出し大盛り上がり。二人とも、感覚で生きているんだよなと改めて思った日曜日のランチタイムでした。脳内は、想像力でいっぱいなんだよ~。

そんな息子と昨日は、お気に入りのラーメン屋さんへ行ってきました。いつものテーブル席に座り、ご飯を食べながら部活について質問することに。彼が陸上部と、仲のいい友達が入る卓球部と迷っていることを知っていました。だから、楽しい時間に、心を開いてくれる状況の時がいいかなとタイミングを待っていて。「もうすぐ部活の説明会にお母さんも行くから、そろそろ決まった?」あなたは陸上に向いている、その気持ちは予め伝えた上で、選ぶのは彼自身なので、最後はその決断を応援しようと決めていました。「仲のいい友達、みんな卓球部にするんだって。仮入部に行った時も楽しくて。もし陸上部に入ったら、学校の往復で一緒に行っている友達とも時間がずれちゃう。D君とは、2年生になったらクラスが離れちゃうと思うんだ。だから、1年生の時はみんなと卓球部に入って、2年生になったら98%の確率で陸上部に入ろうと思う。」目を合わせてはっきりとした口調で伝えてくるので、ぐっときました。AでもなくBでもなく、ウルトラCを持ってきたなと。そして卓球部を続けるという可能性を2%だけ残したのも息子らしい。まだ入学して間もないし、せっかく一緒のクラスになれた仲のいい友達と同じ時を過ごしたい。でもママが推してくれる陸上も続けたい。だったら、クラス替えのタイミングで転部しようと思うんだ。強い意志と自分で沢山考えた気持ちが伝わり、これが成長であり、幹なのかなと嬉しくなりました。「お母さんね、陸上の道を残しておいてくれて嬉しい。いろんなことにチャレンジするRを応援するよ。そうきたかと驚いた。周りに流されないで、自分の意見を持つこと大事だと思うから、本当にしっかりしてきたね。1年後、陸上部に入る指切り。」そう言うと、はにかみながら指切りをし、その光景を厨房から店長さんが微笑ましく見てくれていました。「陸上部に入らなくても、針千本飲ませないから安心してね。」そう伝えると、笑ってくれて。なんていい夜。そして、マミー陸上部に入部が決定しました。毎日1kmは一緒に走ろう、私の方が怪しいのは内緒。

陸上部といえば、中学で入っていた3年の秋、毎日のようにトラックを走っていました。両足はパンパン、接骨院に泣きつきに行くと、そこにはキャプテンも来ていて、二人で仰向けになりテーピングを巻かれながら、沢山の話をした時間。ご夫婦で営み、間接照明の雰囲気の中、こちらの会話を優しく聞いてくれていたそんなひとときが好きでした。その後、休日も走り続けた結果、両足肉離れで補欠にも選ばれず、自主トレをしながら練習配分をしっかり考えていたキャプテンは長距離大会に照準を合わせてきました。これが力の差なのだと。それから時は流れ、別々の高校に。他校の野球部男子君といい感じになり、巨人の仁志選手のファンだと教えてくれました。いつか巨人対中日戦を一緒に観に行けたらいいねと、その言葉が嬉しくて。そして何度か会った数か月後に、バレンタインのチョコを渡すことに。すると、とても申し訳なさそうに、野球で故障をしてしまい、野球に集中したいんだと言われてしまいました。あの時、とてもショックで、精一杯強がってその場を離れたのだけど、思い返してみると自宅近くの交差点で、最後にそこまで会いに来てくれていたんだなと。私は野球に振られたのか?なんてよく分からない思考にもなっていたけど、長い時間自転車を走らせて来てくれたその気持ちだけで十分だと改めて思いました。さらに時は過ぎ、大学に進学。すると、最寄駅から帰る途中、陸上部のキャプテンがランニングをしていたので、久しぶりの再会に喜び、途中まで一緒に帰ることになりました。どうやら浪人中で、気分転換に走っているとのこと。そして、意外な話になって。「○○とどうなった?」野球部男子君とキャプテンは、高校時代の友達でした。そのことは、彼に聞いてすでに驚いていたので、キャプテンから聞かれても落ち着いていられて。「男子同士ってあまり深い話はしないから、知らないかもしれないけど、○○君野球部で頑張っていて、負傷して、そっちに専念したいからって2年生の時に振られちゃったの。」「そうか。アイツ、ちょっと不器用だからな。真っ直ぐなんだよ。僕、Sちゃんと中学が一緒だったから、どんな子?って聞かれたことがあってね。陸上部でとても頑張っていた、最後まで一緒に走った仲間だって話したら頷いていた。Sちゃんさ、自分も故障して悔しかったから、アイツが怪我して頭がいっぱいになった気持ち、分かったんじゃない?だからそっと離れたんじゃないかなって。」泣けるじゃないか。陸上部の顧問が、キャプテンに指名した理由が本当によく分かる。「頑張りたいって思うことを、邪魔したくなかったんだ。」そう話すと、微笑んでくれました。共に走り続けた仲間は、久しぶりに会っても、やっぱり相手を尊重してくれて、その人のペースを大事にしてくれていて、胸がいっぱいでした。一浪して志望校に合格したキャプテン、目標を定めてから自分なりに組み立てていく、そのスタンスは今でもお手本になっている。

最後の大会が終わり、みんなで輪になった。先生達も私達生徒もレギュラーも補欠も学年もなんにも関係なく、ひとつの輪に。その中に自分がいました。3年分の想いがそこにあり、それはみんなもそうで、言葉にならない気持ちがそこに集まっていて。誰に対しての感謝なのか。それはきっと、自分に関わってくれた全ての方達に向けられたものなのだろうと。ユニフォームではなく、ジャージを着ている自分がいる、でもこんな気持ちにさせてくれたみんなにありがとうだな、そう思いました。そして、解散。優しい円から、またスタートを切り、息子に繋げたいのかもしれない。孤独な戦いだけど、本当はそうじゃないのだと。