巡り合わせ

今年度の担任の先生は、他の小学校から来てくれた30代後半の女性の方でした。始業式に息子が教えてくれた情報でイメージを楽しんでいると、学校のお便りが届き、先生の挨拶文が載っていて嬉しくなって。広島県出身の広島東洋カープファンだと分かり、一人で大盛り上がり。カープ女子!!面談の時に、「広島からメジャーリーグに行って大活躍しているカブスの鈴木誠也選手について、どう思いますか?やっぱり神ってますか?」と質問を投げかけたい衝動に駆られ、お会いするのが楽しみになってきました。あほな保護者だと思われるので、秘密の質問は心の中だけにすることにして。

その後、面談の日がやってきました。半日の授業を終え、息子が帰宅すると、D君達と待ち合わせをした!ともの凄い勢いで準備をし、最低限の会話をしてあっさり公園へ行ってしまいました。あの調子では夕方まで帰らないなと吹き出しそうになりながら、こちらもゆっくり準備。話したいことを落ち着いて整理する為に、早めに学校へ出向き廊下で待っていると、息子の作品を見つけスマホでカシャリ。そんなことをしていると、担任の先生がひょこっと顔を出し伝えてくれました。「今、ちょうど空きの時間で他の先生と話していてすみません。少しお待ち頂けますか?」「はい、大丈夫です。こちらの方が早く来てしまい、慌てさせてしまってすみません。」そう言って名乗ると、恐縮しながらその場を離れていく姿に先生の優しさを感じました。素敵な方だな、それが第一印象。でもその前に、宿題の丸つけで先生の“素”を垣間見せてもらっていて。『Rく~ん、ゆっくりかくんやで』漢字練習をささっとやった筆跡で、先生の方言交じりのコメントに笑ってしまいました。学生時代、他大学の関西出身の男友達数人と持ち合わせたものでピクニックをし、解散した後にメッセージが入っていて。『家に帰るまでが遠足やで』最後の最後まで笑わせてくれた友達の言葉が蘇り、なんだか懐かしくなりました。方言ってなんかいいな。

そんなことを思い出していると、招き入れられながら先生にまた謝られ、こちらの方こそごめんなさいという会話が繰り返されると、まだ座ってもいないのに伝えてくれました。「R君もええ子やけど、お母さんもめっちゃええ人。」いきなりそんな言葉をかけてもらえるとは思わず、一緒に笑ってしまって。アイスブレイクどころか、アイスそのものがこの先生にはないのかもしれないな。そして、最近の息子の様子を聞き、今置かれているこちらの状況を伝えさせてもらいました。「実はまだ調停中で、パパと二人で会う?と聞いたら、三人で会いたいと言われ、先日大泣きされてしまったんです。私自身まだ会える状態になくて、本当に辛い気持ちにさせてしまいました。別居してからずっと堪えていたものがはち切れてしまったのだと思います。でも、私の前で負の感情を出してくれて良かったなとも思いました。」「R君、学校ではそんな素振りを全く見せずに、みんなととっても仲良く過ごしてくれています。お母さんの前で自分の気持ちを出せるし、受け止めてもらえるからR君は学校で穏やかにいられるんじゃないかなって。他にはご心配事などありますか?」先生が微笑みながらあまりにも優しく気持ちを汲んでくださるので、今自分が感じていることを正直に伝えました。「この間、動物園に二人で行ったんです。でも、異性だから女子トイレの方が混んでいて、長い時間待たせることになってしまい、そんな時温かい家族連れを見る度に色んなことを思って、悲しい気持ちになったんじゃないかなって。」「実は私も、子供の頃に両親が離婚したんです。母のことも父のことも恨んでいません。辛い時もありましたが、そんな時期を越えると、この経験があるからクラスで同じように辛い思いをしている子に寄り添えるんじゃないかと思えるようになりました。大人になって思い出すのは、いつも頑張っていた母の姿です。子供の為に一生懸命でいてくれたこと、本当に感謝しています。だから、R君にも動物園で感じたお母さんの気持ち、きっと伝わっていますよ。私も、複雑な時期もありましたけどこうして納税者になれました!だから、R君も立派な納税者になって、将来の私達を支えてくれないと!」と最後は、先生らしく笑いも含めて届けてくれるので、半泣きしながら笑ってしまいました。先生、ありがとう。ありがとう。そんな気持ちがダイレクトに伝わり、先生も目に涙を溜めて伝えてくれて。「もうね、私のお母さんと全然違う。R君のお母さん、本当にええ人。だから、R君は絶対に大丈夫です。優しい子になりますよ。」そんな気持ちを届けくれた時、先生は赤いランドセルを背負った自分を思い出していたのだと思いました。お互いの気持ちが循環し、浄化され、あたたかい水がキラキラと流れ出した教室。だから、先生は教員になったんですね。俯きそうな子や保護者の方に、持ち前の明るさでバンっと背中を叩きたかったから。「先生、今日本当に救われました。」そう言って頭を下げると、「こちらの方がです。なんだか偉そうなこと言っちゃったかなって。」と言いながら笑ってくれました。大切なことを思い出したよ。私が教員免許を取得したいと思ったのは、心に触れてくれた先生達に沢山出会ってきたから。言葉にできない感情に気づき、そっと手を添えてくれたから。先生が子供の頃に感じた痛みが、長い時を経て私達親子を助けてくれましたよ。その経験は、大きなプラスに変換され、私の心の中で膨らんだ。その瞬間が、宝石なのかもしれませんね。先生も受け取ってくれていたらいいな。

「最後に一つだけ。名字なんですけど、戸籍上は旧姓に戻しても学校では今のまま使わせて頂きたいんです。」「はい、前の担任から引き継いでいました。だから私、R君R君っていつも呼ばせてもらっているんですけどいいですか?」ああ、先生名字が変わることを想定して、最初からファーストネームで呼んでくれていたんですね。それはどんなことがあっても変わらないから。そんな気遣いに感極まりそうになりながら、お礼を言うのが精一杯でした。人の引力ってすごいな。こんな巡り合わせが、優しさの本当の意味を教えてくれるのかもしれない。広島、いつか行ってみたくなった。先生の故郷を感じた時、何を思うだろう。