見上げた空

緊急事態宣言が明け、延期になっていた学校での除草作業が今年もやってきました。広報委員としての参加だった為、同じクラスで委員のお母さんが連絡をくれて、子供同士も参加することに。当日は気圧と寒暖差の影響で、洗面所で気分が悪くなり、こんなコンディションで行っている場合ではないと思いつつも、責任感の方が勝ち息子と自転車で向かいました。最悪、ジュニアが担いで帰ってくれるかもしれないなんて、思っちゃったりして。そんな絶不調の中、校門付近で会えたのは、約束をしていた同じクラスの友達親子。いつもと変わらない温度で話していたら、沈んでいた気持ちも幾分和らいでいくようでした。そんなことを思っていると、広報委員のあたたかい6年生のお母さんも登場。「昨日は雨だったから、すっかり中止だと思って何度もメールチェックをしちゃった!」といきなり笑わせてくれて。見上げた空は見事な快晴、弾けた声が今日はお薬なのかもしれないな。

その後は、同じクラスの友達と日陰を狙って草取りを開始しました。なぜか『鬼滅の刃』の話になってみんなで大盛り上がり。姉がやたらと勧めてくるので私と息子も見たらすっかりはまっていました。姉に、誰が好きとLINEで聞かれたので、善逸と答えると意外だと驚かれて。具体的にどう好きなのかを伝えると、考察が深い!と返ってきてこれまた盛り上がってしまいました。まだ見ていない方のネタバレになるといけないので掘り下げて書きませんが、一番感情移入をしたのが善逸でした。そして、息子が好きなのは富岡義勇。男性が惚れる男性ってこういう人のことを言うのかもしれないなと、ひとつひとつのシーンに考えさせられます。と言っていたら、2000字が埋まってしまいそうなので程々にして。ちなみに、息子が室内遊園地にあった射的コーナーで、空気で膨らませる炭治郎の刀が当たり、朝からお尻を斬られてきました。お母さん、鬼じゃないんだけどなと思いながらも、たまに角が生えるから何も間違っていないのかもしれないと二人でワイワイ。鬼滅の刃ごっこはこれからも続く。

そういった日常の中で、姉が送ってくれた一通のメッセージ。『Sちんと会えてからちょっと風向きが変わった気がしてる』とハートマークが付いた鍵の絵文字を載せてくれていて、はっとなりました。姉の心にあった小さな小さな鍵穴に届き、風向きを変えてくれたんだなと。そして、母からもメッセージが。『お姉ちゃんから久しぶりに連絡がありました。やはりお母さんのことが原因で心療内科に通っていたそうです。小学校の運動会、私がおばあちゃんの看病で病院に行っていたので、お姉ちゃんは友達のお母さんが作ってくれたお弁当を一緒に食べたりして、とても寂しかったと伝えてくれました。お姉ちゃんの辛さをこれからずっと忘れないで、生きていこうと思っています。辛い思いを沢山させましたね。』その文面を読み、いろんな思いが駆け巡りました。姉が、怒りを爆発させずに落ち着いて自分の辛さを正直に吐き出せたこと、そして、母が真っ直ぐにその気持ちを受け止めたこと。姉がどうしようもなく苦しくなると、とんでもない刃を母にいつも向けてしまっていました。そして、母はその痛みを私にぶつけてきました。「Sもどうせ私のことを憎んでるんでしょ!」と公の場で罵声を浴びせられたことが何度あったことか。姉の痛み、母の痛みをどうしたらいいのだろうとずっと考え続けた日々を思うと、今回の二人のメッセージでその痛みが和らぎ始めていると思え、ようやくここまで来られたのだと堪らない気持ちになりました。『お姉ちゃんの音信が途絶えていた理由が分かって良かったね。その気持ちを、ゆっくり受け止めてもらうことでお姉ちゃんも少しずつ救われていくと思うから。』そう伝えると、『Sにまで、こんなに辛かったんだって怒られたらどうしようかと思ったんだけど、優しい言葉をかけてくれてありがとう。』との返信が。
私は、自分の中で整理し、消化していく。それがどろどろの部分だと分かっているのだけど、母にぶつけるのも何かもう違う気がして。ばかだと言われる所以はここなのかも。「Sは怒りの感情を、相手のことを理解した時点で引っ込める。でもぶつけちゃっていいんだよ。そうじゃないと、ずっとSの心の中に残って辛くなるから。」そんなことを姉に言われたこともありました。そして、最近かかってきた電話。「Sちんのその優しさってどこからくるんだろうね。生まれ持ったものが大きいのかな。でもね、その優しさは自分を苦しめているようにも思うんだよ。Sは、あまり言語化をしない。言いたいことが沢山あるはずなのに、それを飲み込んでばかりいるから、体に出ちゃうんだよ。今回、卵巣嚢腫が良性で本当に良かった。Sの心が悲鳴を上げた、私はそう思っているよ。自分が幸せにならなきゃ。不幸を背負い込むことなんてないんだよ。わざわざ選びに行く人生は、もうやめようよ。」42年間分の私を見てきてくれた姉だから伝えてくれた言葉なのだと思うと、泣きそうになりました。でもね、ひとつだけ間違いがあるよ。架空のカフェのマスターとして、自分の想いを聞いてくれる方達がいる。私は、その人達に助けられているよ。信じられる?会ったこともない方達が、自分の痛みに触れ、未来を応援してくれているんだ。スマホを耳に充てながら、姉に気づかれないようにそっと微笑んでみる。ありがとう、ネネちゃん。

ふと運動場から顔を上げると、雲一つない空が広がっていました。「今度は運動会で会おうね!」「うん。広報委員の片付けで遅くなるかもしれないから子供達二人で、運動場で待っていてもらおう。」と私が伝えると、「じゃあ、かくれんぼしているよ!」と息子。「本気のかくれんぼはやめてね。見つけられないから。」そう言うとみんなで大笑い。またね!みんなが手を振ってお別れ。姉が寂しい思いをした運動会、彼女の中で今年はいつもとは違った気持ちで迎えられたなら。リレーの選手に選ばれた上級生の姉、その姿はとても誇らしかったと伝えるよりも先に、運動会の記憶に色がついてくれるかもしれない。ダークグレーではなく、赤と白と華やかな国旗が彼女の記憶を塗り替えてくれると信じて。