大切な振り返り

次の外来まではシャワー浴。寒い時期に辛いなと思いつつも、息子の出産後も同じ冬で、ぶつくさ言いながらシャワーを浴びていたことを思い出しました。退院後一か月は自宅療養、まだまだ体が鉛のように重く、食欲もいまひとつ。時間をかけてゆっくり元の状態に戻していこうと思っています。在宅ワークなら、少しずつ始めてもいいとのこと。ただ今は、自転車や車の運転、重いものを持ったり、腹筋を使うことは禁止なので、傷口が落ち着く一か月後に、行動範囲を広げる予定です。
前は、リズミカルに打てたタイピングも、結構エネルギーがいることを知りました。こんなに体力が落ちるとは。大きな経験が、また一つ自分の幅を広げてくれたらいいなと願っています。

改めて今、振り返ってみて、大切なことを思い出しました。漢方内科の主治医が、総合病院から遠方の個人病院へ異動になる話をされた数年前、遠いなと思いながらも、先生が私の心配をし、親身になって勧めてくれたので通うことにしました。でも、体調の悪い日の電車はきつく、思い切って自分の力で頑張ってみると伝え、一旦お別れ。手元の漢方が無くなり食欲も落ち、本当にこれで良かったのだろうかと色々考えました。心も体も、あそこまで深く心配してくれる医師に出会うことは、この先もうないんじゃないか、だったら離れたらいけない、直感と言うべきか、何か本能のようなものが働き、もう一度行ってみると何も変わらない穏和な先生がいて、戻ってきて良かったなと心から思ったことを覚えています。「やっぱり、遠かった?」「・・・はい。」「それなら、前の総合病院で週に一回だけ他の科なんだけど、枠が少し空いているからそっちにおいで。」そんな先生の優しさにすっかり甘え、また通うことになった隣街の総合病院。私の下腹部を触り、違和感を覚えた先生は、一瞬顔が強張りました。「できるだけ早く婦人科で診てもらってきて。」と。いつもは穏やかに別れる先生が、慌てて紹介状を書いてくれようとして、バタバタとご挨拶。自宅に帰り、予約の電話、明日にしようかなと思っていた時、先生が本気で心配をしてくれた表情を思い出し、その日のうちに予約の電話をかけました。すでにいっぱいとのこと、でも、明日なら一つだけ空いています、後からそう言われ、患者さんを想う先生の気持ちが私を動かしてくれたのだと思いました。その予約がずれていたら、どんどん日程はずれていてどうなっていたことか。そして、この先生から離れたらいけないとまた戻った時から、もしかしたら出会った時から、助けてもらえる運命が待っていたのかもしれないなと思うと、胸がいっぱいになりました。元々は、頭痛が酷くて出向いた漢方内科。人とのご縁は、本当に不思議なものです。先生が挫けそうな時、伝えました。「組織に負けないで、これからも沢山の患者さんを救ってください。」と。その時見せてくれた先生の表情が神様のように優しくて、この患者さんに出会えて良かったなという顔をしてくれました。医師と患者なのだけど、人と人として、深く繋がれたようで温かいひとときでした。だから、先生が私の腫瘍を見つけてくれたのは必然だったのだと今でもそう思っています。この先生だから、見つけられたのだろうと。

母の心の病気を、主治医に初めて話した時、「よく頑張ってきたね。」と奥底から伝えてくれて。それは同時に、もうそこまで頑張らなくていいと伝えてくれているようでした。腫瘍が取れた今、私がこれまで苦しんできた沢山の葛藤を、先生が気づき、楽にさせてくれようとしていたような気もして、何度思い返しても、ひとつひとつの診察の時間が優しく、ここまで辿り着くように促されて今があるのだと思うと、感慨もひとしおです。子供の頃から、体が弱い自分を、どこかで卑下していました。自己肯定感を、少し自分で下げているようなところもあったのかも。思うように体が動かない、メンタルは決して弱くないんだけどな、でも今日はきついな。そんな日がどれだけあったことか。そんな私を丸ごと包んでくれる医師に初めて出会いました。そして、僕の患者さんにもあなたのような方がたくさんいるのだと。皆、それぞれが頑張っているよ。その中で模索し、日々を生き、自分と向き合い、いい方向へ進むように願って過ごしている。先生が私に伝えてくれるのはこういった気持ちなのだと思っています。

自分の中に流れるもの。手術前に点滴を付ける時、針が痛くて看護士さんに伝えると、手術中に輸血をするかもしれないので、太い針が刺さっていることを教えてくれました。手術室でも、手術の内容によっては輸血が必要になってくる話をされました。色んな思いがこみ上げて。そう言えば、高校の時、献血カーが来て、参加しようとしたら友達に全力で止められたなとか、名古屋駅で献血をしようとしたら、その日に薬を飲んでいてできなくて残念がったら、スタッフさんがその気持ちが嬉しかったと言って、やってもいないのにカロリーメイトをくれたなとか、自分は協力できなかったのに、誰かの血がもしかしたら助けてくれるのかもしれないなと思うと、わっとこみ上げました。
だから、こうして、自分ができることを精一杯やっていく。できることとできないことがあるけど、書くことで、人の気持ちが循環してくれるのなら。ご自身だけじゃなく、隣にいてくれる誰かに優しくなれるなら書き続けたい、そう思っています。

桜、咲くよ。今年もたくさん。あなたの心にも、そして私の心にも。