言葉を大切にする

息子を寝かしつけ、やれやれと思いながら点けたテレビ。夫が帰宅するまでのほんのひとときを大切にしなくては。そう思いながらNHKをぼーっと観ていると、ラグビー元日本代表ヘッドコーチのエディ・ジョーンズさんがインタビューに答えていました。今の日本の状況をどう思うかと。「規律、他者への敬意、忠誠といった価値観はすべて侍の価値観だと思う。今こそ極めて重要になる。自然災害がある度に日本人は、一致団結して問題解決に取り組んできた。東日本大震災の時もラグビーW杯で台風が来た時もそうだった。」その言葉を聞いた時、はっとなり、忘れかけていた何かを思い出させてくれたような、熱いものがこみ上げてきました。外から見た日本。そうだ、ホストファミリーも同じようなことを私に伝えてくれていた。感謝を忘れないのだと、謙虚な姿勢は日本人の最大の良さだと思うと。

シェアオフィスのラガーマンTさん。テレワークに切り替わった彼は、せっかくの機会なので勉強を始めることにしたと、新しいことにチャレンジを始めていました。そして、SNSに何気なく載せた一行に教えられました。『できない理由じゃなくて、できる方法をみんなで考えたい』、ラグビーの精神、試合を観ることはできなくても、培ってきたものを届けようとしてくれる想いに、心が満たされていきました。自分の中に留めないTさん、今度は何を語ってくれるだろう。

何気なく、母に聞いた実家の話。「お母さん、自宅の庭にあった木、あれは何の木だったの?」「あれね、おばあちゃんが植えたしだれ桜だったのよ。一度も咲かなかったけどね。何で気になったの?」そう言われ、わっと泣きたくなりました。あの木、桜だったの。私、おばあちゃんが亡くなった春に、ほんの少しだけ咲いたのを見たよ。きっと一瞬だったんだろうね。でも見たよ。それを伝えようとして、色々な気持ちがこみ上げ止めました。あまりにも驚いている私に父が追加の情報を教えてくれて。「お父さんが佐賀から来た時には、もうその木があったんだよ。ハチが寄ってきて大変だったんだぞ。」思い出した!ランドセルを背負って、門を開けると私も走って玄関に行っていました。おばあちゃん、桜を植えてお父さんを迎えたんだね。あの木、おばあちゃんそのものだったんじゃない?皆を、どんな時も優しく見守ってくれていました。私と姉が並んで映る年賀状は、いつも桜の木がバックに。後から知ることも悪くないね。いつもそばにいてくれた。

名古屋ナンバーの車に乗り、母を連れてこちらで生活を始めた父。一緒に老舗の和菓子屋へ行くと、思いのほか混んでいたので、父と私は車で停車をして待っていました。すると、父が少し慌てた様子でぼそり。「名古屋ナンバーでうろついていると、こんな時期に観光だと思われてしまうから、早く帰りたい。」そのうろたえ方に笑ってしまったのですが、他者へ配慮しようとする姿勢は父らしいなとも思いました。ボロボロの車は、お父さんの名古屋での頑張りでしょ。非難よりも敬意を表したい。
祖母が危篤状態になった時、両親と祖父は病院のベッドにいて、姉と私は留守番をしていました。人目もはばからずに、祖母の肩をさすりながら泣いた父。その姿を見て余計に泣けてきたと母が後からこっそり教えてくれました。「おばあちゃんね、お父さんのことが可愛くて仕方がなくて、いつも自分の物よりお父さんにセーターを買ってきたりしていたの。おじいちゃんが短気でも、おばあちゃんが守っていたから、お父さんは一緒に生活ができていたんだと思う。その感謝を最後に伝えたかったんだろうね。」何を考えているのかいまいちよく分からない父。それでも、行動で示そうとするその心は、やっぱり温かかったのだと思っています。

息子を預け、パソコンバッグを持ち、「少しだけ見ていて。」と父にお願いすると、「おお、いいぞ。」とさりげなく言ってくれました。「いってらっしゃい。」その言葉がどれだけ優しいものだったか。ここは両親の家。でも、忙しい合間を縫って仕事に行こうとする娘に伝える言葉は、じゃあなではなく、いってらっしゃいなのだと。お前の頑張り見ているぞ、やれるだけやってみろ。たったひと言に想いを乗せるその姿に助けられてきた。行間を読めるようになったのは多分、父のおかげ。