学びよりも楽しむこと

休校中、学校からの学習課題のメールを受け取り、始めた九九の練習。4の段の『しにがはち、しさんじゅうに』の所で、どうしても資産運用と言いたくなるのは私だけ?!大人になった証拠?とくだらないことを思っていると、思い出したもっとくだらない記憶。
まだ愛知の小学校に通っていた3年生の1学期。一人の男子が、3の段の『さんにがろく、さざんがく』の所を、サザンオールスターズとわざと言い、笑いながら男の先生が頭をパシッ。その時初めてサザンというグループを知り、すっかり好きになった小学校時代。きっと担任の先生も好きでツボにはまったんだろうな。怒られてもいいからどうしても言いたい!その衝動は分かるよ。これが男子と女子の違い?!

一昨年の紅白だったかな。トリを飾ったサザンが歌ったのは二曲。『希望の轍』(作詞作曲:桑田佳祐)がイントロでかかった時、わっとこみ上げるものがあり、本気で泣きたくなりました。この曲知ってる。でも、なぜだか思い出せない。この曲を聴いていた頃、何かあったんだろうな。それは悲しいものではなく、多分どうしようもなく熱くなったこと。音楽に助けられていた学生時代。掘り下げることはもっと辛いことの連続だと思っていたのですが、強引に蓋をしてしまった中に、忘れてはいけない小さな宝物が埋まっているようです。
もう一つの曲、『勝手にシンドバッド』(作詞作曲:桑田佳祐)は、姉との淡い思い出。「S、今何時?」「時計持っていないから分からない。」「違うでしょ!そうねだいたいねってサザンのファンは言わないといけないんだよ!」「え~?それじゃあいつも時間分かんないじゃん!」「冗談に決まってるでしょ!アンタさ、とりあえずノッテおこうよ。」はいはい。音楽がもたらしてくれるものは、こちらが思っているよりも、ずっと深い。イントロだけで、沢山の溢れる記憶が蘇るよ。それはもしかしたら、本の表紙を見た時の感覚に似ているのかも。

もう一つの学習課題、本読み。図書館も閉館になっているので、教科書の内容を読み、息子に感想を書いてもらうことにしました。それは『スイミー』(レオ・レオニ作)。自分が小学2年生の時に魅了された大好きな内容でした。小さいから大きな魚に食べられるという訳じゃない、力を合わせればいいんだ。自分の個性を生かせばいいんだ、そうしたら負けない時もある。そのメッセージは小さな心の中に落とし込まれました。
そして、小学校の図書室で働き始めた時、『スイミー』の大型絵本を見つけて胸がいっぱいに。まだ学んだばかりの2年生が皆でスイミーの絵本を広げ、読みふけっている姿を見て、名作はどれだけの年月を経ても残っていくものなのだと教えてもらったような気がしています。とっても本が好きで、沢山の読み聞かせをしてくれていた40代の女の先生。一人の男子児童が色々な事情を抱え、転校しなければいけないかもしれないとなった時、その先生が図書室に入り、そっと伝えてくれました。「先生、私ね、校長先生や教頭先生にも転校はやむを得ないと言われたんだけど、私が責任を持ってこの子を見ますからって必死に食い下がったの。新しい学校に行ったらもっと苦しい思いをするかもしれない。だから、私が最後まで見たくてね。S先生なら、この気持ち分かってくれるような気がして。」涙を浮かべてそう話してくれた先生は、その子を連れて、初めて図書室に来てくれた大切な二人でした。混乱してしまう彼の居場所になってあげてほしい、それが先生の願いでした。「先生の気持ち、痛い程分かります。学校側や家庭の事情はあると思いますが、先生がそこまで感じてくれている想いは、彼に届いていると思います。それが、今の彼を支えているんじゃないですか。」そう伝えると、そっと微笑み、ふっと肩の力を抜いてくれたようでした。

転校せずに残ってくれた彼。そして、勤務最終日にその先生のクラスの皆が書いた手紙をファイリングして、校長先生を通して渡してもらいました。職員室で半泣きしながらめくり、閉じた後に目が合い頷いてくれた校長先生がいて。それぞれの子達が、それぞれの想いで書いたもの。図書室という場所に、図書室にいてくれた先生に助けられたんだよ、優しく微笑んだ目がそう言っていました。宝物がまた一つ増えたね。女の先生が大切にしていた彼の個性、スイミーのように自由な発想でのびのびと成長してくれていたら。人よりも変わっていたっていいじゃない、びっくりする程才能が開花することもあるよ、そのアシストをするのが教育なのかな。”one of them“(彼らの中の一人)ではなく、” only one“を大切にしよう。