息子が相変わらずぬいぐるみ達と楽しそうに遊んでいたので、声をかけてみると、色々と答えてくれました。「ライオンのライくんは、明日旭山動物園にバイトなの。ゆめくん(旭山動物園にいたしろくまの赤ちゃんがゆめちゃんなので、我が家は男の子のしろくま)と肉くん(肉をくわえているホワイトタイガーの赤ちゃん)は動物幼稚園があるから、明日ライくんの背中に乗って行くんだって。」「動物幼稚園も旭川にあるんだね~。でも、どうやって行くの?」「走っていくみたい。」「それでは警察官に捕まっちゃうよ。」「大丈夫!許可証を持っているから。」・・・。その許可証はどこで発行されているんだ?!そもそもどのタイミングで見せるんじゃと相変わらず突っ込みどころが満載の息子の世界に笑ってしまいました。「ライくん、帰りも忘れずゆめくん達をお迎えに行ってね~。」と二人でわいわい。旭川に、本当に動物幼稚園ができたら面白い。
最近、ちょいちょい入ってくる母からの連絡。父が小さく何かやらかしているのは容易に想像でき、なんとか気を紛らわそうとこちらにメッセージが入っていることを感じていました。が、息子と私の頭痛も酷く、自分達のことで精一杯だったので会えなくてごめんねとやんわり断ることに。本気でだめオヤジ攻略法を考えた方がいいなとあれこれ思っていると、思い出された一つの記憶。父が実家を出て、少し経った頃、まだ大学生だった私に一本の連絡が入りました。風邪をひいてしまったので、おかゆを作りに来てくれないかということ。「Sが家で辛いことがあったら、お父さんちに来られるように、マンションの合鍵を渡すから。」そう約束して家を出た父。その後、合鍵の話をすると軽く流され、女性の人がいるからだとすぐに分かりました。それでも、実家で苦しいことがあり、車を走らせ父の所へ行くと本当に彼女に遭遇。言葉では表現できない程の気持ちになったものの、ぐっと押し込み、その後マブダチK君に慰めてもらいました。そんなことがあったので、風邪をひいておかゆを作ってと言われても、彼女がいるでしょという思いがこみ上げ、それでも格好悪い所は見せられないんだなと父の気持ちも分かってしまい、自宅の米と佃煮を持って父の家へ。ディズニー好きの彼女の趣味がすぐに分かり、複雑な思いの中父をケアして帰宅。その話を、また時間が経ってK君にすると、激怒。「お前は本当にばかだ!そんなの知るかよ!彼女にやってもらえばいいだろ。Sは傷つくのが分かっていて、それでもお父さんが苦しんでいるのを放っておけないから行くんだよ。そういうお前の優しさを都合よく使うなよ。なんだよくそっ。」とずっと同じことをぐるぐる怒ってくれるので、ふと力が抜けました。「でもね、シンクがきちんと磨かれていたんだよ。綺麗好きな人なのがすぐに分かった。お父さんはこういう幸せを求めていたのかなって。」そう話すと、少し間があってふっと笑ってくれました。全部ひっくるめてSなんだよな、そんな気持ちが込められていて、彼の包容力に助けられたようでした。
10年以上ぶりに再会したK君。「なんだか私、お父さんを見てきたから、めちゃくちゃハードルが下がっていて、男性を見る目がないのかな。」と率直な感想を伝えると、ガストで彼が大爆笑。これでもかというぐらい心の底から笑ってくれたので、その当時のことを覚えてくれているK君の笑い声を聞いたら、色々なことが吹っ切れていくようでした。「なあS、これからは自分のために生きろ。」そう伝えてくれた彼の言葉は重い。火の中に飛び込んでいく私を何度も見てきた友達。火傷しちゃった~って帰ってくんなよ!そう言いながらもケアし続けてくれたK君。もう二度と飛び込むな。「手術した後に病名聞いて調べたら、おいおい死ぬ病気じゃねえかってこっちは気が気じゃなかったんだよ。上手く行ったから良かったけど、Sを大切に思う人達は、みんな同じ気持ちだったはずだ。これからは、そこまで自分を追い込むなよ。」自分の命の重さを、彼を通して知った日、心の奥底で魂が震えた。
父に風邪をひいたと呼び出された日に、短時間だけ戻れるとしたらどうしようか。「合鍵ももらえない上に、彼女にまで遭遇して、その後のフォローも最悪だった。私も人間だから傷つくことだってあるんだよ。そんな自分を沢山の人達が励ましてくれているの。お父さんに分かる?この気持ち。本当に孤独になった時、本当に大切なものが見えるんじゃない?熱出してうなされればいい。私の痛みはそんなものじゃないから。」そう言って電話を切ってやろう。でも、少し時間が経ち、くそ~と思いながらおかゆを作って、薬を持って、手紙を添えて父の自宅前に置いておくだろう。『40歳を超えて、卵巣がんの疑いが出る。かわいい男の子がいるのに洒落にならないよって毅然としようとする私にお父さんは言ってくれた。「できることは何でもするから、何でも言え。」本当にこの人薄情だなって何度思ったか分からない。でも、その薄い情は実は濃かったりして、そんなひと言に助けられてきた。43歳の私がこのおかゆを作った。もしかしたらわざとまずくしてあるかもしれない。相変わらずお母さんは泣かせるし、本当にもう最悪。でも、私達家族は、ここ一番という時にお父さんに助けられてきたのも事実なんだよ。だから、腹が立つけどありがとう。』これで響かなかったら、人間じゃない。さあ、未来のどのタイミングで爆弾を落としに行こうか。
「あなた達、端から見ていると姉弟喧嘩みたいね。」と私と息子がやり合っているのを見て母は笑いながらよく言う。そして、ネネちゃんと息子が二人で会話をしている時、私が存在しなくて姉と弟のような不思議な錯覚に陥った。私を妊娠中、自転車に乗って転んだ母は大量出血。障害があるかもしれないからと堕胎を医師から勧められても、絶対にこの子は産むと強い意思でこの世に送り出してくれました。もし、私がいなければ、三人目の男の子は産んでいたのではないか、そんな気がしていて。それでも、自分がいなければネネちゃんを守り切れなくて、やっぱり彼女の妹である運命が私には待っていたような気がしています。そして、この世に生を受けなかった弟のことをずっと思っていました。その気持ちが、息子へ繋がってくれたのだとしたら神秘。世界は、そんな風に回っているのではないかと時々思うのです。辛さも喜びも何もかも巡り、心に落ち、誰かに渡され、誰かが笑顔になっていく。だから、好循環を作れるように両手を広げていい空気を吸い込もうと思います。
メリークリスマス。沢山の優しい結晶がみなさんの中に降り注ぎますように。