入学式から流れるように

式が終わり、在校生の方達が舞台の上で合唱をしてくれました。その歌声は、少し前に聴いた小学校の卒業式のかわいい声ではなく、中学生の落ち着きそのもので。一年一年の重みと、変化の早さ、人が成長する美しさを垣間見せてもらったようで、ぐっときました。ふと、年明けに亡くなった佐賀の祖母を思い出して。3人の息子を育て上げたおばあちゃん、孫の私が遊びに行くと、子供達一人一人の個性を嬉しそうに話してくれました。高校を卒業して、名古屋の銀行に就職した父。大事にしてきた長男が思いがけず早く旅立ったので、心配や応援や少しの寂しさが祖母の中にあったのだと感じました。あまり多くは語らず、人の話を聞いてそっと微笑んでいるような所がSちゃんはお父さんに似ていると。そんな話をしてくれる度、制服を着ていた父をどこかで思い出しているような気がしました。そして、沢山の方達に見守られ他界。遺影を抱える父を見て、胸の中で祖母が嬉しそうに守られているようで、とても優しい光景でした。そんな父は、春休みに用事でふらっとやってきて。息子がスマホを持ったことを伝えると、喜んでリビングに入り、早速ポケモンGOで繋がりました。「じいちゃんな、毎朝Rにスマホからプレゼントを送るから、受け取るんだぞ。」その後、本当に毎朝ポケモンGOのプレゼントをもらっている様子。お父さん、そんなにマメな人じゃなかったよね?!と思うと笑えてきて。おばあちゃん、お父さんと息子が不思議な繋がりを持ったよ。ひ孫の制服姿は、届いていますか。

歌声を聴いていたら、心の中にあった場面はどんどん変わっていきました。感動の教育実習が終わり、まだ3か月も経たない頃、アメリカで起きた同時多発テロ。たまたま母と見ていたテレビで、その映像を目撃しました。とんでもないことが起きた、そんな中で姉のいるカナダへ行ってもいいのだろうか、沢山の気持ちが一気に渦巻いて。なんとかネネちゃんとコンタクトを取り、カナダだから大丈夫、くれぐれも気を付けてきて、成田空港までのチケットは取れなかったから自力で行ってという無茶ぶりもあり、ある意味彼女らしい内容に少しほっとできたような気がしました。車の旅をしていたマブダチK君に事情を話し、あっさり快諾。母とスーツケースを乗せた、深夜の国道一号の旅が始まりました。彼は、私が掴んだものを知っている、そして背負っているものも。だからこそ、二人で見上げた箱根の星空はあまりにも綺麗でした。辛くなったらこの景色を思い出せ、そこには沢山のメッセージがあったのだと。そして、朝方着いた成田空港。ぎりぎりまでスーツケースを運び、俺も一緒に旅しているみたいだと喜んでくれた彼。なんか空港ってテンション上がるな!と盛り上がってくれて、いい別れが待っていました。「楽しんで来いよ!」その時向けてくれた笑顔を忘れることはないだろう。その後、テロの影響で、大幅にフライトの時間は遅れ、ようやく乗り込んだものの、機内で眠れなかった母は現地に着いても機嫌が悪いままでした。バンクーバー空港も大混乱、乗り換えの為にアメリカ行きに向かう人達の背中は、本当に切なくて。いろんな空港職員の方に質問をされ、ようやくカルガリー行きの便へ。空港で姉やホストママに会えた時は、本当に感激しました。あたたかい血の繋がりが、私にもあるんだなと。そして、翌日にはレンタカーを借りてバンフへ。沢山の湖の美しさを目にし、ようやくホストファミリーの家に戻った夜、個室で母と二人になると怒鳴られました。こんなに時差ぼけで寝られないのに、なぜもっと気遣えないのかと。ふんぞり返りながら罵声を浴びせられ、ぐっと堪え、母が退散した後姉が入ってくると、涙が溢れてしまって。もう隠しようもなく、事情を知った彼女が伝えてくれました。「Sちん、私も一緒に日本に帰ろうか?」と。その声が、いつもどこかで張り詰めていたネネちゃんとは違い、あまりにも優しかったので余計に泣けてきて。関空で語学力の壁にぶつかっていた姉は、もっと力をつけたいと思い、貯金を全部崩してカナダへ留学。いろんな気持ちを振り切って、ただ前に進みたい彼女の気持ちを知っていました。だから、何があっても足枷にはなりたくなかった、でも同時多発テロがあって、なんとか来られたカナダの景色があまりにも綺麗で、だからこそ母の罵声が耐えられないもので、それでも頑張っている姉には見せてはいけない涙だったと思うと、本当にもういろんな想いでした。少しでも、大丈夫が伝わるといいなと願い、教育実習の一番最後に生徒達に贈ったプリントアウトした手紙をネネちゃんに読んでもらうと、涙が一滴彼女の頬を伝って。妹が重ねたものがここにあるんだなと。私が見た社会、実習から3か月もしない間にこれだけのことがあった。全てが特別で、全てが繋がっていて、沢山のあたたかさに触れてきた。そしてこれからも続いていく。
式が終わると、息子はこちらを振り返ることなくお友達と楽しそうに退席していきました。それでいい、振り返らず大空を飛べ。

制服姿を見て玄関で見送った次の日、身長が伸びて見上げるようになるまで時間の問題だなと思いながら、雑用が溜まっていたので市役所へ向かいました。書類を出し、担当してくれた年齢の近い女性のストラップが気になったので思わず聞いてしまって。「ヤクルトファンですか?」と。すると、スワローズのストラップからこちらが気づいたことを驚かれ、とっても喜んでくれました。「はい!そう言われたの初めてで、嬉しいです!」「息子も私もファンなんです。つば九郎の担当の方、悲しいですね。」「そうですね。私、つば九郎からヤクルトファンになったんです。真中監督が優勝した年ぐらいからです。今、ベンチにつば九郎が座っていてみんながポンポンってする度に泣けてきて。こういう話をできる方がなかなかいなくて、今日話ができて本当にありがとうございます。」と涙ぐんでくださるので一緒に泣きそうになりました。つば九郎の担当の方と、息子が繋げてくれたこのご縁に感謝だな。「きっとみんなのこと、空から見守ってくれていますね。」どちらからともなくそんな話をすると、一緒に笑顔になりました。これが、つば九郎が望んでくれていることなんだな。えみふる、いつも心の真ん中に置いておきたいなと。神宮球場のライトスタンドが好きという話でお互い盛り上がり、本当にいつの日か現地でお会いできる気もしていて。人とのご縁はそういうもの、やわらかい引力がそうさせるんだ。始まった新年度は緩やかに、穏やかに流れ出した。みなさんも、ほわっと包まれる一年になりますように。