10月3日月曜日、ヤクルトの今季最終戦を見逃さないように、息子に伝えました。「今日、村上選手の56号がかかった大事な最後の試合で、3人の選手の引退試合でもあるの。早めにお風呂に入って、一緒に観よ~。」すると、状況を理解し、あっさりお風呂に入ってくれて、私も出てくると、すでに中盤に突入していました。神宮は満員、この空気を吸い込んで球場から帰ってきたんだ。
そして、息子がヤクルトのバチを持ってきてくれたので、二人でソファで応援。ヤクルトがリードしたまま7回、村上選手の最終打席が回ってきました。隣に座っていた息子はiPadを取り出し何やら検索をしていたので、テレビ画面を見たまま、「この打席を見逃したらいけないよ~。」と言った瞬間、1球目にカーンという音が。「ああっっっ!!!」自分の声がどこから出ているんだと思うような大きな声に息子もぴくっと反応。バットを放り投げ、最高の笑顔を見せてくれた村上選手と、ライトスタンドに入ったボールが映し出され、息子と大歓声。「入った!!最終戦の最終打席だよ。すごい選手だな。本当にすごい。日本人新記録だよ。」と感激しながら彼に伝えると、バチを持って一緒に喜んでくれました。こんな感動ってある?大きな壁を打ち破ってくれた人がここにいるんだなと堪らない気持ちがこみ上げていると、ホームに帰ってきた村上選手を高津監督が満面の笑みでハグをし、チームのみんなとハイタッチ。その途中に山田哲人選手がいて、彼らがぎゅっとハイタッチしながら手を握った時、二人の中で繋がる深さを感じ、泣きそうになりました。みんなが待っていた56号ホームラン、いろんな人の夢を運んでくれた歓喜の時間に酔いしれました。歴史的な瞬間、息子と目にすることができ、本当に良かった。
その後、試合はヤクルトの勝利に終わり、高津監督の挨拶が待っていました。内川選手、坂口選手、そして嶋選手に送った言葉はとてもあたたかいもので色々な出来事を運んで来てくれました。内川選手は3度もWBCに出場。2度目の2013年準決勝でダブルスチールに失敗。その試合を、その瞬間を見ていました。呆然と立ち尽くす内川選手、敗戦後、カメラの前で自分を責め、涙が止まらない姿を見て、私も一緒に泣きました。内川選手よくやってくれましたよ、またJAPANのユニフォームを着て戻ってきてください、ひたすら願いました。その4年後、本当に戻ってきてくれた彼の姿を見て、4年間どれだけの想いの中にいただろうとものすごく力をもらったようでした。日の丸を3度も背負い、その計り知れない重圧と戦ってくれた内川選手、その姿を忘れません。
そして、坂口選手。近鉄バファローズ最後の戦士だと知り、涙が溢れました。小学3年生、愛知から岐阜に転校になり、父が銀行の取引先の方からもらったとかで、近鉄対西武戦をナゴヤ球場へ観に行くことに。名鉄に揺られ、初めてプロ野球を観戦したのは、母と観に行ったパ・リーグの試合でした。バックネット裏に座り、ルールもよく分からず、ぼんやり聞こえてきたのは、後ろに座っていたビール片手にいい感じで出来上がっていた大阪のおっちゃん二人。近鉄ファンだとすぐに分かり、愛情のこもったヤジに笑えてきて、すっかり楽しませてもらいました。父になぜ中日戦以外の試合が行われていたのかを聞くと、名古屋大阪間で近鉄が走っているから、近鉄がホームとなり試合が行われたのだろうということ。時は流れ、大阪に就職を決めた姉に会いに行く為、高校3年の夏、初めて近鉄のアーバンライナーに乗りました。名古屋と大阪を繋げてくれているこの電車は私の中で特別なもので、近鉄戦のあのおっちゃん達はもしかしたらこの電車で名古屋に来てくれたんじゃないかと、色々な想像が広がり、嬉しくなった優しい旅でした。引退のセレモニーで坂口選手のファンの方が近鉄のユニフォームを掲げていて、母と観戦に行った思い出や、トルネード投法で大活躍してくれた野茂投手、近鉄の球団が無くなってしまうという喪失感を覚えたこと、でもまだ近鉄でプレーをしていた選手がいてくれていたことに胸がいっぱいでした。近鉄からオリックス、最後はヤクルトで、坂口選手、近鉄ファンの一人としてありがとう。
最後は、嶋選手。3.11の時、母とオーストラリアに行っていて、姉との国際電話で大災害が日本で起きていることを知りました。夜のニュースで、ホテルから津波の映像が映し出され、愕然とし、私の中で時が止まりました。関東で勤務する大学図書館は大変なことになっている、私は何をやっているのだろう。帰りのフライトも1日遅れでようやく関空行きが予約でき、やっと図書館に着いた時には、どの棚も本が山のような状態で落ち、足が震えました。やるせない気持ちを抱えたまま、時は過ぎ、そんな頃に楽天の捕手であった嶋選手のファンへの挨拶を見ることに。「見せましょう、野球の底力を」その言葉を聞き、自分の中で止まっていたものがゆっくりと動き出しました。そうだ、前に進もう。そんなファンのみんなに大きなものを届けてくれた彼は、引退会見の中で、その言葉は重圧だった、楽天で優勝してようやく肩の荷が下りたと話してくれました。そんな嶋選手の気持ちを思ってからか、最終戦を終えた高津監督がグラウンドで届けてくれて。「野村監督も星野監督も今、天国であなたに拍手を送っていると思います。みんな見てましたよ、あなたの底力を。本当にお疲れさまでした。」その言葉を聞き、帽子で自分の顔を隠し泣いている嶋選手を見て、悲しみに暮れる日本にとんでもない力を渡してくれていたのだと、その気持ちが高津監督を通して彼の元に戻ってきたのだと思うと堪らない想いに包まれました。野球の底力、人としての底力を長年に渡って見せてくれてありがとう。
3人の勇姿を見届け、今年の引退はずっと応援してきた選手達ばかりで辛いなと思っていると、村上選手が56号のオープンハウスのプレートを掲げ、息子が食いつきました。「3億円のおうち?!ええっっ!!1にバツが付いていて3に変わっているよ!」「とんでもない活躍をしてくれたからね。日本人新記録だけでなく、最年少で3冠王なんだよ。まだ22歳だよ。村上選手が、これから自分の記録を塗り替えてくれるかもしれないね。」そう話すと、3億のおうちってどんなだろうとずっと言っていて、笑ってしまいました。
ぎゅぎゅっと詰められた最終戦。笑顔も涙も喜びも寂しさも感謝も敬意も、色々な表情を見せてくれた選手達に心からのお礼を伝えたくなった夜。ヤクルトファンになってくれた息子に感謝して、今夜は眠ることにしよう。グラウンドに一礼して、中に入っていった3人の選手、いい野球人生だったとその背中が伝えてくれていた。