糸口をつかむ

シェアオフィスの窓から、綺麗なうろこ雲が見えた日、奥様を亡くされたミルキーのKさんを見かけたのでご挨拶。ずっとお仕事内容が気になっていて、落ち着いたらお話を聞かせてくださいと伝えていたので、話せる側の席で直接伺うことができました。私と内容は違うものの、ウェブサイトの運用をされていることが分かり、話を聞く中でなんだか励まされていくようでした。「最初の一年でうまくいかずにやめてしまうサイトって結構あって、だからできるだけSNSなどの投稿もしていたんです。そうしたら、ユーザーさんが増えてくれて、その方達が僕を支えてくれています。」彼に出会えたこと、こうして話を聞けたこと、そして同じような気持ちでいてくれたことに胸がいっぱいでした。そして最後に伝えてくれて。「もう一つの仕組みを最近立ち上げたんです。そちらは、亡くなった奥さんとずっと構想を練っていたもので、ようやく実現できました。あなたが沢山話を聞いてくれたから元気になれて、また新しいことを始められて、本当にありがとうございました。」奥様と沢山考えた手書きのファイルを見せてもらいながらお礼を言われて、泣きそうになりました。「そちらのお仕事も大きくなるように願っています。奥様との大切な財産ですね。」そう言うと、今までになかった晴れた笑顔で嬉しそうにしてくれました。私も頑張ろう。

SNSと言えば、このサイトを始める前のプログラマーMさんの話を思い出しました。母のことで思い切って距離を取った数年前、この際なので受けてみようと思ったカウンセリングの終盤、近くのカフェで待っていてくれた彼。思いがけず自分の過去を深く掘り下げることになっていた時に、この話を持ってきてくれました。「怒りの感情を出したらカウンセラーの先生が笑ってくれたんだよ。いいですね~って。なんだか私、今まで何やってきたんだろうなとか、何をどう間違えちゃったんだろうなとか、いや、間違いじゃなくて、これまでの自分を認めてこれからだよねとか、本当に色んなことを思ったよ。これって私だけじゃなくて、みんなそれぞれにあったりするのかなって。」そんな話を微笑みながら聞き、土台を作るからライターの道に進まないかと声をかけてくれました。「最初はSNSなどで広げないと、ネットの世界で埋もれてしまうかもしれない。でも、あなたの言葉で励まされる人は必ずいると僕は思う。書き続けることは大変だと思うんだよ。でも、Sちゃんの世界観がネットの世界に広がったらどうなるんだろうって見てみたい気がするよ。」その後、心理士さんにあっさり渡された卒業証書。答えは私の中にあるなら、書くことで見つけよう、進む道がくっきり見えた大きな分岐点でした。

4年半ぶりに会った姉に、今やっている仕事の話をざっくりとした時のこと。「ネネちゃんと見ていた『素顔のままで』(フジテレビ系)があったでしょ。主人公の安田成美さんが、司書から絵本作家になったの。その流れがとても好きで、司書をやりながら私もいつか書いてみたいとずっと思っていてね。そうしたら、プログラマーの友人がサイトを作ってくれることになって、そこでライターとして活動しているんだ。」「そうか~、それは良かった!」妹は本と共に生きてきた、その陸続きで今のSがいるんだね、そう伝えてくれているようでした。お姉ちゃんの怒りも悲しみも理不尽さも、どうしようもなく自分が嫌いになってしまうその気持ちも書かせてもらったよ。その痛みが、きっとこのサイトを通し、誰かを救ってくれている。そして、そんなあなたが私は好き。沢山の鎧を着て自分自身を守ろうとした姉、久しぶりに会った彼女からその鎧は無くなり、ありのままの姿はあまりにも可愛らしい人でした。「私ね、昔は大人だったから、今子供なの。」うんうん、分かるよ。子供の時、大人にならざるを得なかったもんね。何か言葉を発したら涙が溢れそうで、頷きながら聞いていました。タイムスリップしたかのような錯覚に陥ったのは気のせいだろうか。ランドセルを背負い、玄関に待たせている幼稚園バッグを斜めがけにした妹の為に、毎日走って帰ってきた姉の姿が蘇る。私達のあまりにも太い絆、離れていても切れることはなかった。

『サイトを運用しているKさんが毎日のようにSNSで発信していて、やっぱりそういったことも大事なのかとちょっと思いました。』そうメッセージで伝えると、プログラマーのMさんが返信をくれました。『Sさんの記事の広がりは、本当に人から人が強いから、拡散と言うよりは浸透なんだと思っていますよ。』内側の奥深くで感じてくれる方達がいる。だから、私は頑張れるんだな。自分の棺桶に、『さくらdeカフェ』のハードカバーが入る日は来るのだろうか。そうじゃなくても、誰かが全ての記事をプリントアウトして綴じてくれるかもしれない。それを持って、先に逝った家族に会いに行こう。私が歩いた歴史がそこにはあるから。軍服を着たおじいちゃんは、何を思ってくれるだろう。