どこに帰る?

息子が学校へ持っていった虫かご。「休み時間にカエルを捕まえて、学校の靴箱に置いてあるんだ!」と嬉しそうに話してくれて大慌て。「家に持って帰ってくる時は、空っぽにしてきてね。お母さん、カエルが本当に苦手なんだよ。」ぷぷっと笑われながら、せっかく捕まえたのに~と文句を言われたのですが、仕方なく納得してくれました。
そして後日、空っぽの虫かごを持って帰ってきたので安堵した数日後、お友達と公園で待ち合わせをしたから、虫かごを持っていくと言い残し、出かけて行ってしまいました。満面の笑みで帰ってきた7歳児。まさかと思い、遊んだ内容を聞いてみると、「カエル二匹とコオロギ三匹を見つけたから、虫かごに入れてきた!ママも見て。」「見ません!!いい?間違っても家の中に入れないでね。玄関の外に置いておいて~。」本当に虫嫌いなんだね、女の子だもんねと若干上から目線で言われてしまい、ちょっと悔しい思いをした珍事件。タイトルの“かえる”とかけてみました、と呑気なことを言っている場合ではない。早く草むらに帰しましょうよ。

こんな実にくだらない日常の中で、さらに虫嫌いな姉。最近彼女の話題が多いのは、私が頭の片隅で気になっている証拠なんだろうな。でも、お互いにとってベストなタイミングがきっとあるはず。少なくともどちらかの毛糸が本気でほどけた時じゃないと、また絡まり合って辛くなるので、好機をそっと待とうと思います。

そんな姉が大阪で働いていた頃、一冊の雑誌が実家に届きました。「お母さん、お姉ちゃんから色々な資格取得の雑誌が届いたんだけど、これって私達にもっと力を付けろっていうメッセージなのかなあ。」「さあ、でもそういうことかもね。」と二人で言いながらパラパラめくっていると、姉を発見!どういうこと?!と思いながら見てみると、英検などを取得し、語学を磨くことで今の仕事に就けましたというような内容がインタビュー形式で載っていて、慌てて母に報告。「あの子って、いきなり結論なのよ。何も言ってくれないからこっちは分からないわよね。なんだか男の子を育てているみたい。いきなり雑誌を送ってきて面白い子よね~。」全くだ。そして、まだ面白さが残っている中で姉に電話を入れてみました。「お姉ちゃん、雑誌届いたよ。何も説明がないから、資格を取得しろっていう意味かと思ったら、載っているし。」「ああ、仕事で忙しかったら、とりあえず送ってしまおうと思って。説明はその後でいいかなって。いきなり取材を受けたんだよ。」なんだか突拍子もないというか姉らしいというか。「格好良く写っていたよ。」「その裏側では結構ドロドロだよ。」夢を壊さないで~と一緒に笑ってしまいました。表と裏、また全然違うのかもしれないけど、表に出ている姉の表情が生き生きとしていて、堪らない気持ちになりました。彼女が掴んだ夢、それが雑誌の1ページに載るということ。その過程がどれだけ大変だったか、知っているよ。

そして、またある日、「福岡の空港に数か月出張に来ているんだよ。」という連絡が。これから行くのではなく、もう現地にいるのねと笑うしかなくて。いつもの職場から離れて、どこかで和らいでいるような気がして、私も嬉しくなりました。「長くいるから、お母さんが来られそうなら案内をしようと思って。」それは喜ぶよと話し、家事は全部やるからゆっくりして来てと母を送り出しました。数日後、マイナスのオーラ全開で母が帰宅。「せっかく呼んでくれたのに、お姉ちゃんと喧嘩になってしまい、色々言われてしまったの。自宅で言われるより、旅先で言われる方がよっぽど辛かったわ。」その話を聞き、私も辛くなってしまいました。離れている時はまだ優しくできる、でもいざ母が目の前にいると、子供の頃に大事にされなかったことがわっと蘇ってきてしまうのかもしれないな、それを反省どころか逆切れモードの母を見たら、姉の怒りは倍増して、どうしようもない雰囲気になることは容易に想像でき、この人達は離れていた方がお互いにいいのだと、まだまだ時間が必要だと一人で胸を痛めた一日でした。
福岡出張が終わり、大阪に戻った姉に改めて電話をすると、またやってしまったという反省会。「お母さんに優しくしようと思っても、目の前にいるとどうもダメだわ。Sの負担を少しでも減らそうと思って呼んだんだけど、逆に迷惑をかけちゃってごめんね。」お姉ちゃん、私には優しいんだけどな、何かがどうしてもうまくかみ合わないもどかしさが拭いきれなくて、それでもいつかみんなで笑い合えたなら。

沢山の航空会社の面接の練習に付き合った日々。英語で格好よく話す姿勢も、立ち居振る舞いも、きっちり着こなしたスーツも、くっきりメイクで大人の女性を醸し出した表情も、どれも姉の姿で、もうすぐこの人は飛び立っていくのだと思いました。お姉ちゃん、振り向かなくていいから、帰る場所を思い出し、窮屈な思いをしなくていいから、どうか気持ちよく飛んで。そんなことを願いながら、面接官をやった時間。採用の切符を手にしたのは、大阪。なんだかその距離感がどこかで彼女らしく、ひとつひとつの出来事を輪切りにしても、胸がいっぱい。
今、何を思っているのだろう。姉の心のホームが妹の私であるなら、いつか必ず会いに行こう。