外の空気を吸いに出た

息子が休みの日に、母と三人で出かけることになり、ふらっと電車の小さな旅が待っていました。秋になってから、すっかり不調に翻弄される毎日、電車に乗って大丈夫かなと思っていると、息子が何気ないひと言。「おばあちゃんとママと三人で電車に乗るの、珍しいね。」そう言えば、私とのお出かけはいつも市内だったなと反省の気持ちがこみ上げ、半日頑張ることに決めました。今日は楽しかったね~と言いながら、眠りにつけますように。

その後、目的の駅に着くなり、母が構内のお店に吸い込まれ、息子と二人呆然と待つこと数分。ようやく外に出られたと思ったのも束の間、別のお店に吸い込まれ、8歳児がぼそり。「これで2回目だよ~。」言葉にしてくれてどうもありがとう。そして、歩行者天国を歩いていると、あっちへふらふら、こっちへふらふら。「ママ、ボク数えているんだよ。これで5回目。」正直すぎる息子と半笑いしながら母を待ち、ようやくお気に入りのカフェに辿り着きました。そこは、私がカウンセリングをしていた後に、立ち寄っていたカフェ。何年も経ち、久しぶりに覗いた時は閉店してしまっていました。その後もう一度通ると、居抜きされ、前の雰囲気を残した新しいカフェに変わっていたので、母を誘うことに。そう、その場所はプログラマーのMさんが、このサイトの話を持ってきてくれた特別な場所でした。前と同じ窓際の席に座り、母を目の前にすると色んな気持ちがこみ上げて。そっと目を閉じ、歩いてきた道を思い出してみる。母のことで恐怖を抱いてしまっていたのに、今目の前にいて笑っていられるなんてね。そんなことを思っていると、息子がMさんから譲り受けたiPadにイヤホンを付けて、動画を見ながらぷぷっと笑いだすものだから、思わず母と笑ってしまいました。店内もざわざわしていたので、迷惑にはならなかったものの、今どき過ぎる小3男子に店員さんも微笑みながら通過をしてくれて。あたたかいカフェの雰囲気に今日も感激。

そんなことを思っていると、母が名古屋の小料理屋のママの話をしてくれました。「この間行った時ね、○○さんが色んな話をしてくれたの。旦那さんの浮気で別れた後、お姉さんが一緒に住まないかって声をかけてくれたみたいでね。でも、従弟同士でどうしても差がついてしまうことを心配して、息子さん二人と住むことにしたんだって。ママね、本当にお金で苦労していた。あなたには話せないこと沢山あったと思う。聞いていたらポロポロ泣けてきちゃってね。Sの誕生日に○○さんが祝ってくれたことがあったでしょ。その時、お母さんの話を聞いて少しでも元気になってもらえたらってSちゃんに花束を渡して届けてもらったって。そういえばそんなことあったなって思い出してね、ご自分が苦労されてきたからお母さんを励まそうとしてくれたんだなって思った。なんとかお店も軌道に乗っていたのに、二年後にビルを壊すことになって、私の人生も一緒に壊れた!って笑ってくれてね。本当に明るくて、楽しかった。」ママの精神が、母を通して透き通るように染みわたってきました。悲しみを自分の足で越えてきた人、そこにいてくれた“人”をいつも大切にし、せっかくなら笑っていたいじゃないってかわいい笑顔を向けてくれる優しいママの声が聞こえてくるようでした。「緊急事態宣言中に行ったから、ノンアルコールだったの。お客さんの入り具合をさりげなく聞いたら、面白いことを教えてくれてね。月曜日は○○さん、火曜日は○○さんってみんな曜日が決まっていて、絶対に来てくださるんだって。宣言が明けたから今はもっと賑わっているでしょうね。」それは臨時休業できないよね、ママ。必ず来てくださるお客様の為に、たった一人かもしれないお客様の為に、お店を開け続けた彼女の想いを絶対忘れるものかと思いました。ビルの工事、延期してくれないかな。

姉とタリーズで再会した時、私のカフェ好きに驚いたと笑ってくれて、色々な彼女の胸の内を改めて思い出しました。「私ね、子育てをして今は仕事をしていなくて、これまで積んできたキャリアや資格は、期間限定の肯定感だったんだって気づいたの。働いている時は、自分で自分を高めることができた。でも、母親になって、お母さん達の輪の中に入るのも苦痛な時があって、子供時代のことも沢山思い出すし、自分がよく分からなくなってしまったのかも。」その話を聞いた時、母がこっそり私に伝えてくれた内容が蘇ってきました。「お姉ちゃんね、一時期働いていたの。でも、子供がまだ小さい時に一緒にいる時間が減ってしまい、随分自分を責めちゃってね。だから、結局辞めたんだよ。」姉の中に沢山のジレンマがあって、働けば自分を保っていられるのに、姉自身が子供時代に寂しい思いをしたことを忘れたことはないから、いろんな感情が渦巻き辛かっただろうなと。だから、今私が伝えられる渾身のストレートを投げてみました。「ネネちゃんも私も、もし自分が親になったら、あんな辛い思いはさせないってここまで来たと思うんだ。この気持ちは私達にしか分からない。今しかできないこと、今だから分かること、きっと沢山あって、子供とのひとつひとつの時間を大切にすることが、自分自身を大切にすることにも繋がっていくと思うんだ。ネネちゃん、いいお母さんだよ。母親として、私達頑張ったよねって思えるところまで進もうよ。」そう言うと、優しい笑顔でコクっと頷いてくれました。あなたのことを丸ごと肯定する、そんな気持ち届いただろうか。

昨晩、息子の寝かしつけで、「I love you.」と呟くと、両手でハートを作ってはにかんでくれました。その姿を見て胸がいっぱいになり、二つ仕事ができないかといった発言は、息子のものではないと確信しました。彼は、真っ直ぐに投げた球を真っ直ぐに返してくれるから。「お母さんね、Rが頑張りたいことを応援したい。なんだっていいの、お友達のこととか、漢字ができたとか、早く走れたとか。そんな姿を近くで見届けたいって思っているよ。」「うん、ボクも同じ気持ち。」ネネちゃん、私もいいお母さんになれそうだよ。