面と向かって言えないこと

夫との出会いは図書館。私が大学図書館で働いていた時、カウンターでよく話すようになり、気が付くとなんとなくご飯に誘われていました。
スーツを着て、とても誠実そうだった夫。だから、なおさら誤解のないように、失礼のないように、私はやめた方がいいと伝える為に、仕事終わりにファミレスへ。

私の家庭環境は本当に良くなくて、それにより、男性を見る目が少しおかしくて、今までの恋人には泣かされてきたし、自分はどこかでB級品だと思っていて、もっと素敵な人が似合うと思うからと一気に話しました。
あなたが私のことを素敵だと感じてくれているのは、図書館司書の姿であって、それは表の顔で、本来はもっと沢山の葛藤を抱えていて、可愛くない。それを、正直に言うと、じっと聞いていた夫は、とても真っ直ぐ、なんの曇りもなく伝えてくれました。

「あなたは、そのままだと思いますよ。図書館のカウンターで笑う時と同じように、日常でも同じ笑顔を見せてくれる人なんだと思いました。何も、変わりませんよ。」

あ~、この人はとんだ勘違いをしている。どうやったら分かってもらえるのだろう。友達としてならうまくいくけど、恋愛となると話は別。距離を取りながら付き合っても楽しくないよ。そんな私の気持ちをよそに、デートに誘われてしまい、人の話聞いているのか?!と困惑。ゆっくりでいいからとやんわり言われ、その日は解散。やや丸め込まれた感あり。

当日、自宅前まで迎えに来てもらう時間になっても現れず。ぼんやり待っていたら、車に乗って登場し、はいっと渡されたものは、花束でもなく、プレゼントでもなく、マグロのカマでした。なんで?!と聞いてみると、「昨日、友達と三崎漁港に行ってきたから、お土産。」と言われ、笑ってしまいました。全然飾らない人なんだな。自分をよく見せようと思わない姿に、いつの間にか心が少し解れていて。
日本一可愛くない女性だったはずなのに、気が付いたら素直になっていたのは、彼の不器用な優しさのせいだったかも。

もうすぐ、母の膝の大掛かりな手術が始まることを夫から聞きました。心の準備がまだできていない状態で、でも後悔のないようにきちんと会おうかとも思っています。そうすると、また同じことを繰り返すのではないかと不安も過っていて。
やっぱり、夫は私ではなく他の女性を選んだ方が良かったのではないかと、弱気にもなっていて。

そんな気持ちになると必ず思い出す、ファミレスでの言葉。「あなたはそのままだと思いますよ。」
無理して頑張っている姿も、相手を想うからこそ苦しむ姿も、自信を無くして凹む姿も、そこからまた這い上がろうとする姿も、泣いた後に笑う表情も、全てが表であり裏である。
恋人だった彼の言葉が、今も、これまでも、そしてこれからも私らしくいさせてくれる。

あの日は、さらっと流したけど、本当はすごく嬉しかったということ。その言葉が、私を支えてくれているということ。