本当はシンプル

毎日のように持って帰ってくる宿題プリント。相変わらず算数の問題が分からないと困っていたので、隣に座って説明を始めました。「平行四辺形の面積を求める時は、どうしたらいい?」「え~、わかんない。」そう言われたので、算数の教科書を出し、該当ページを開きました。「前にも話したんだけど、学校で一度やった問題が復習として宿題に出るんだよ。理解が追い付かなかったかもしれないけど、平行四辺形の面積を求めるにはどうしたらいいのか、教科書に載っているからこのページから探してみよ。」「・・・底辺×高さ?!」「そう。それさえ頭に入れば、解ける問題なんだ。」そう言っていくつか一緒にやってみると、あっさり分かり、伝えてくれました。「やっと分かったよ。ボク、一週間学校でなんでだろうなって思っていたの。」「Rは、物事を逆に難しく考えてしまうところがあるの。でも、算数の問題って思っているよりもシンプルなんだよ。パターンが分かるとRは強い。学校は集団生活だから、どんどん進んでいかないといけないし、みんなが分かっているのに自分だけ理解できないと不安になって、そういった心理作用もあるのかもしれない。ゆっくり落ち着いて考えればいつも分かってくれるから、その度に聞いてね。」そう話すと安心してくれました。「やっとボクすっきりしたよ~。」と平行四辺形の面積はいつでもかかってこいの様子。お母さん、確率の問題は苦手なんだよな~と心の中で苦笑。サイコロ振ってどうのこうのと言われても、知らんし。その時までに息子の学力が上がっていることを勝手に期待しよう。

学校の途中まで迎えに行った夕方、公園で空を見上げるとすっかり秋の雲が広がっていました。なんだかきゅっとなって。息子と小田原駅の新幹線出口の方面へ行った時、祖父と握手し、見送った時のことが思い出されました。どれだけ年を重ねても、痩せてしまっても、手はごつごつしていて力強くて。多くの兄弟に囲まれ、末っ子だったおじいちゃん。上から順番に呼ばれていって、赤紙が届いたのは、病気がちだった兄弟を除いて最後だったと話してくれました。その時の気持ちを聞いてみたことがあって。「おじいちゃんな、生まれた時から体が丈夫だったんだよ。だから、いずれ呼ばれるだろうと覚悟はできていた。」驚く程冷静だった祖父、お兄ちゃん達が戦地へ向かう度、気持ちの準備はもう十分できていたのだろうと思いました。陸軍だったおじいちゃんは、鉄砲を持つ構えをして、銃声を「パン、パン」と表現しました。まだ耳に残っているのだろうと。亡くなった戦友もいる、それでも前へ前へ進んでいった、その時の情景と、心を無にしようと努めた祖父の気持ちが流れ込んできました。その後、日本は敗戦、乗せられた車の中で知った絶望感も伝わってきて。戦争はいつか終わりが来る、でもシベリアで捕虜になった今、本当の地獄を味わうことになるんだろうなと。祖父はとても頑固、絶対に自分を曲げない所があるし、こうと決めたらこうで、周りの意見は聞かなくて大変なのだけど、何が何でも諦めなかった祖父の精神が、極寒のシベリアの地で重機を持ち、働き続けた後、日本への帰還に繋げてくれました。小さな小さな光、本当に消えてなくなりそうな光だったはず、それでも家族に会えることを信じ、強い生命力で帰ってきてくれたおじいちゃん。この手で、鉄砲や重機を持っていたのかと小田原駅で別れる時に、沢山の気持ちが溢れ、祖父が歩んできた沢山の歴史を感じ、堪らないお別れでした。
「おじいちゃん、私ね、日本歴史をもっと学びたくて大学で日本史を専攻したんだけど、掘り下げすぎて古代史になってしまった。でも、今の日本がどんな風にここまで来たのか、その土台を学べることを幸せに思うよ。」「そうか。」そう言って一緒に笑ってくれた夕飯の時間。祖父の意地と命が繋がった尊さを、私は受け止めることができているだろうか。

「うちの子も男の子達なんだけど、Sちんが男の子を産んで、どれだけおじいちゃん嬉しかっただろうね。名字の件はさ、あまり深く考えなくても、その時が来たらでいいんだと思う。なるようになるって。なんか、そういうことか~って私の中ですっきりしてね。SちんもR君も、おじいちゃんとおばあちゃんが守ってくれるから大丈夫。」何かそこには、ネネちゃんにしか分からないものがあって、確信のようなものも、未来も、安心も含めて伝えてくれた言葉のようで、その解に向かって今息子と歩んでいるのかもしれないなと思いました。Sちんさ、いろんなことが子供の頃からあって、複雑に考えてしまうのも分かる、相手のことを思って自分の気持ちをもっていったりね。でも、もうR君と自分のことだけでいいんじゃない?その中で、余裕が生まれた時、また誰かのことを考えたりすればいいんだと思う。もっとシンプルでいいんだよ。少なくとも私は、感情のまま生きていた3歳頃までのSちんを知ってる。お父さんとお母さんは二人でなんとかしていくでしょ。もう、幼稚園から帰ってきてわーっと泣いちゃうSの相手大変だったんだよ。でも、本能のままに生きている感じがして、そんな妹も好きだった。もっとわがままでいいんだよ。そんなSちんをおじいちゃんもおばあちゃんもきっと願っているよ。姉の言葉を思い出し、秋の空を見上げたら、一滴こぼれました。ネネちゃん、あなたの気持ちに助けられたよ。

「ママ~、明日の音楽、二時間もあるんだよ!」とランドセルを背負っていきなりぶつくさ。太く繋がった命がここにある。それを思うと、雲も風も祖父母が包んでくれているような気がしました。おじいちゃん、よく帰還してくれた。ひ孫は元気に育っています。心も体も。いつかひいじいちゃんの強さに届くといいなと思っているよ。社会の教科が一番好きだと言った、祖父と父と私の血が混ざっていたら自然なことなのかも。我が家の濃い歴史を守り抜いていく。