目の前にあること

ラグビーワールドカップ、3戦目のサモア戦は金曜日の朝4時からということが分かり、さすがに息子の体調を考え、諦めることに。それでも、気になっていたようで試合時間を聞いてきました。「次の試合、何時から?」「フランスで行われているから、時差があって朝4時からだから、睡眠不足になるとRのバランスが一気に崩れることも分かっているし、この試合は諦めよう。4試合目は見られるといいね!」そう伝えると、さすがに難しいことが分かり、意外とあっさり理解してくれてほっ。私だけこっそり起きて観戦しても、敏感な息子はその気配を察知して起きてしまうのではないかと思い、こちらも断念。そして、金曜日の朝7時に起きました。試合は録画しておいたんだよな、スマホを開いたら結果が分かってしまう。でも学校で話題になるかもしれないと思い、いつものようにテレビを点け、洗面所へ向かうと、「日本勝った~!!」という息子の声が飛び込んできました。「やった~!!」と二人で喜んだものの、詳細は聞かないでおこうと思い、いつもより気持ちを上げて学校の途中まで見送りました。そして、さっと家に帰り、早速試合を観てみることに。気持ちはフランスへ、タイムラグはあるけど、結果も分かっているけど、共に戦う。

キックオフ、フィジカルの強いサモアの選手とぶつかり合う日本の選手達を見ていたら、4年前のワールドカップの時、シェアオフィスの受付で心の中ではピッチにいるラガーマンTさんを見かけました。まだ、挨拶程度しかお話をしていなかった時期、それでも彼から溢れるラグビー愛は驚く程キャッチできて。連日の熱戦で気持ちのいい睡眠不足であることはなんとなく分かっていたので、「ゆっくり休んでくださいね。」と伝えると、「ありがとうございます!眠いっす。」と言いながら笑ってくれました。きっとこの会話が、Tさんとの友情を育んでくれた始まりでした。そして、私はシェアオフィスを離れ、彼も異動になり、それでも所属していたチームのグッズを渡したいと言って頂き、再会をすることに。そこで繋がったLINE。その線には、情熱の赤を感じました。彼がいつも大切にしていたパッションが感じられ、とても意味のある細くとも長い繋がりを大切にしたいと思いました。それから、数か月後、お誕生日のお祝いメッセージを送ると、返信が。『メッセージ、ありがとうございます。ワールドカップと学生ラグビーで週末は寝不足ですが、毎日Happyに過ごせるようにしたいと思います。ランチがまだ実現できてないので、また落ち着いた時期などに伺わせてください!』想像通りの寝不足がなんだか嬉しくて。そして、ランチはね、本当にもう何年でも何十年でも待ちますよ。仕事が忙しいのはいいこと、ご家族との時間を大事にし、学生さん達にラグビーを教え、それこそ、Tさん一人の時間はないんじゃないかと思う。それを、きっと彼は幸せと呼んでいる。そんな姿を応援しながら、少し合間に時間ができた時、また笑って再会が果たせたらいいなと思っています。そして、とても白熱したサモア戦を観て、Tさんも現役の時、桜のジャージーを夢見た日があったのではないかと思いました。その夢を、今度は自分の仲間達へ。彼が、ワールドカップがある度、特別な想いで試合を見ているその熱いハートが流れ込んできました。試合は、28対22でブレイブブロッサムズの勝利。あと少しで勝利に届いたサモアの選手が立ち上がれないでいると、満身創痍の日本選手が歩み寄り、サモアの選手の手を取り、一緒に立ち上がりました。繋いだ手と手、合った目と目は優しく力強くて。勇敢な(brave)だけでなく、暖かい(warm)心を持った方達だな、そう思いました。さあ、勝負のアルゼンチン戦へ。

その後、すっかり上がった気持ちのまま、息子のお迎えに行くと、伝えてくれました。「○○君ね、朝4時に起きてラグビーの試合観ていたんだって!」「お母さんね、そんな気がしていたんだ~。ラグビー教室に通っているから、やっぱりリアルタイムで観たくなるんじゃないかってね。」そう言ってわいわい。その子は、1年生からの友達でした。食物アレルギーがあり、小さい時に二回救急車で運ばれたと息子が話してくれたことがありました。お母さんは気が気じゃなかったはず。沢山悩み、子供の成長を願い、いろんな気持ちの中でラグビー教室に入れたのではないかと。「R、いい?一緒にプールに行ってアイスを食べて帰ってくるでしょ。ひと口食べる?とか、そういった優しさが○○君にとっては命に関わるし、とても辛いことなの。Rも頭痛持ちだから分かると思うんだけど、その子その子で抱えている辛さって違ってね、絶対に食べ物をシェアしたらだめだよ。これはもう絶対なの。」「うん、分かった。」その友達を、授業参観で見かけた時、CanterburyのTシャツを着ていて、あっと思いました。背が随分伸び、日焼けをして、表情が凛々しくなっていたから。息子の友達が、屈強なラガーマンを目指し、ワールドカップを朝4時に起きて見ていたと知り、なんだか嬉しくて。本当にもしかしたら、いつかTさんのチームと対戦することもあるのではないか、そんな風に世の中動いているんだよねと未来が楽しみになった帰り道。

さらに週末、鈴木誠也選手の活躍を願い、カブスの試合を観ていると、息子がぽつり。「ボク、野球の試合を観ていたらバッティングセンターに行きたくなってきた!」と言われたので、早速向かいました。すると、唯一あった90kmの左打席が機械の故障で使えなくなっていて、二人で大笑い。今日はロングスカートにサンダルで、打つ気はなかったのだけど、貴重な左打席が使えないとは、もう少し左利きに優しい世の中になってほしいものだと笑いが止まらないでいると、20代の自分が思い出されました。そこは、夏の夜のバッティングセンター。ネネちゃんと婚約した義兄が誘ってくれて、三人で向かいました。すると、左打席の順番待ちをしている私が、小学男子にまみれ、ヘルメットを被って並んでいるので、その光景がよっぽど面白かったのか、右のバッターボックスに入っていた義兄が爆笑していて、一緒に笑ってしまいました。そして、こちらに来てひと言。「Sちゃん、小学生に囲まれて、違和感ないから余計に笑えてきた!君の妹、面白い!」とネネちゃんにも言うので、二人に笑われて。左打席は一か所しかないんじゃ!と心の中で思いながら、小学生といて楽しいからまあいいかと和やかな時間が流れました。それから20年、目の前でフルスイングしている息子の母親になり、この音を聞く度、感慨深いものがあるなとしみじみ思って。ヒット性の当たりが増え、成長はあっという間だな。「ママ、もう少し打てるようになったら75kmから85kmにしてみるよ!」バッセンにいる時間が、自分と向き合える空間になるといいね。その10kmの球の速さが、あなたの成長の早さなのかも。「野球チームは辞めても、野球は好きでいよう。」この約束を大切にしてくれている息子へ、お世話になったコーチ達にいつかきっと届くよ、その気持ち。練習の最後に整列、帽子を取り、グラウンドとコーチにありがとうございました。野球道、大人になっても覚えてくれていたらいい。