感動よりも笑いを

こちらの雰囲気を十分わかってくれている婦人科の先生は、会う度ラフに話しかけてくれて。「先生、どうやらまた副鼻腔炎になってしまったみたいなんです。」「それは辛いな~。」「はい、もう最悪なんです!!」と素直に伝えると、大爆笑されてしまいました。今の薬でも副作用が出てしまっているのに、さらに何かあると大変だな~と思ってくれているのだろうけど、どこかでこちらの悲劇を楽しんでもいるようで、一緒に笑ってしまったひととき。なんだろうな、少し苦痛が緩和されたのは笑い飛ばしたおかげ?!この先生と10年後もお腹抱えて笑っていたりして。

いよいよ、大量の広報誌が学校に届き、仕分け作業に行った終業式前。沢山の気持ちがこみ上げ、感動するかと思いきや、やっぱりそこにあったのは笑いでした。6年生のいつも温かいお母さんとまず手を洗おうと廊下へ出ると、蛇口が低い!と盛り上がってしまい、いい感じのウォーミングアップでした。低学年用だから、そりゃ低いよね。その後、各場所へ分ける為みんなで枚数を数え、何度も確認をして無事に終了。その前には委員長からグループLINEが入っていました。『中三の子の試合をようやく見に行けることになり、最後の大会なので仕分け作業の日ですが行ってあげたくて、お願いしてもいいですか?』その言葉に胸が熱くなり、もちろんそちらを優先してくださいとみんなで伝えました。副委員長の返信には、これまでの感謝が詰まっているようで。『コロナで見に行けなかったですもんね。ぜひ行ってあげてください。最後は私達でやります。』仲間っていいな。個ではなく、チームだから協力し合えたこと、こんな時期だからこそ届け合った気持ち、忘れることはないだろう。

その後、無事に作業が終わったので、6人の談笑が始まりました。その中で副委員長のお子さんが、女の子の双子ちゃんだと教えてくれて。「あまりにも育児が大変だったから、2歳までの記憶がないんです。」半分冗談なのだろうけど、半分は本当にそうだったんだろうなとみんなで大笑い。そして、6年生のお母さんは、一人っ子の娘さんとの会話を話してくれました。「いつも夜まで娘と二人だから、帰ったらすぐに学校の出来事を話してくれるんだけど、朝イチから話が始まるから、午後からの内容でいいよって毎回思うんです。その話、お母さんに関係ないしって。」そう言いながらも、優しく聞いている姿が容易に想像でき嬉しくなりました。男の子、女の子、兄弟や姉妹がいるのか、家族構成で気にするポイントも悩みも違ってくるのだろうけど、共通しているのは子供の成長をあたたかく見守っているということ。沢山失敗し、学び、今があるということ。そんなメンバーと気持ちよく解散、また二学期の行事から広報委員の活動を始めるまでしばしのお別れ。余韻に浸りながら帰ろうとすると、ご自宅で一緒に作業をした同じクラスの男の子ママが話しかけてくれました。「長い付き合いになると思うから、これからもよろしくね。」そう言われ胸がいっぱいに。3月でお別れではなく、続いていくんだね。

委員長はやはり看護士さんだと教えてくれた副委員長。ビンゴ!と思いながら歩いた帰りの廊下で蘇った学生時代の友達のお母さん。いつも看護士の仕事を忙しそうにされ、遊びに行った時にはカレーを振舞ってくれました。食べ終わった後、「そのお肉ね、実は松坂牛の端くれだったの。」とひと言。なぬ!そういえばここは三重県だった!と思いながら、「おばさん、できれば食べる前に言ってもらえたらもっと味わったよ~。」と言うと笑ってくれて。「端っこで安かったから言いそびれちゃったわ。」と和やかな時間が流れました。大学4年になり、卒業の目途も付いた頃、もうなかなか会えなくなるだろうと思い、車で通りかかった勢いで、おばさんの勤める病院へ。一目だけでも会ってお礼が言えたなら、そんな願いを込めて麻酔科の窓口に行きました。受付の方が伝言をしてくれて、嬉しそうに出てきてくれたおばさん、初めて見る白衣の姿に胸がいっぱいでした。「お仕事中にごめんね。通りかかったら会いたくなって。おばさん、もうすぐ卒業なの。お金の事、沢山心配してくれてありがとう。中退も頭を過った時、そばにいてくれてありがとう。」そう伝えると、目に涙を溜め伝えてくれました。「わざわざ会いに来てくれてありがとう。卒業おめでとう。Sちゃん、今幸せ?」「うん。」病院の廊下、長椅子に二人で座り、これからの未来を想い、羽を広げようとする私を応援してくれました。「ご両親のことは、ご両親のこと。あなたのこれからを大切にしてね。」「うん。おばさんも元気でいてね。」もっと沢山伝えたいことがあったはずなのに、色んな気持ちがこみ上げて、言葉にならなくて。父が家を出た直後、お金の為に頭を下げに行った私に胸を痛めてくれたおばさん。「その度にSちゃんが傷つくよ。銀行振り込みにしてもらって。」あの時の私にとってプライドなんて邪魔になるだけだと思っていたのに、それを守ろうとしてくれた人がいて、その気持ちがどれだけ尊いものだったか。

手術台へと向かう途中で、不安を抱える私に優しく微笑みかけてくれたのは麻酔科の看護士さん。臓器摘出を一任するサインをした書類を持ち、最後の確認を行ってくれました。おばさん、頑張るよ。こんな立派な仕事をしていたんだね。溢れてきたいくつもの記憶。麻酔がかかる前にふと笑えたような気がしたのは気のせいだろうか。自分の幸せを願い、命が輝くようにと願ってくれた沢山の人達の顔が浮かんだから。