上がる日曜日

コロナの影響で、息子の野球チームがあったり、なかったり。そして、雨も多い中、久しぶりの快晴で嬉しくなりながら見送りました。「野球日和だね!」「え~、嬉しくないよ~。」文句があるなら、かっ飛ばしてこい!気持ちよくヒットを打ったら、その時掴んだ感動が体の中に残るから。また次も打てるかもしれない、そして仲間も一緒に喜んでくれたその瞬間が励みになるんだ。

そんなことを思いながら、混むと分かっている図書館へ出向くと、案の定すごい行列ができていました。想定をはるかに超える混み具合に苦笑しながらも、学生さん達と一緒に並んで待ち、運よくひとつの席に座れたものの、両サイドの学生さん達が気になってしまい、集中力がそちらに持っていかれている今現在。左隣の男子学生さんは物理の勉強をしている理系君、右隣は現代文のテキストに奮闘している文系女子の学生さんで、カタカタやっていて大丈夫かなと思いつつ、彼らの頑張りをここに残しておくから許してもらおうという都合のいい解釈をして開き直っています。コロナの影響が出始めて間もない頃、大きなアルコールのボトルを自席に置き、受験勉強を頑張っている学生さんがいました。そんな姿を見ると、本気のエールを送りたくなって。図書館で働いていた頃の自分が、沁みついているのかも。

大学図書館で勤務していた頃、自分よりも若い、一人の男性職員の方が何気なく伝えてくれたことがありました。「僕、軽度の知的障害があるんです。」と。思いがけないことを言われ、率直に答えてしまいました。「え?全然分からないです。」あまりにも素で伝えたので、少し笑われてしまい、そんなあなただから正直に告白したんですよという顔をされ、なんだか胸がいっぱいになりました。行間を読むこと、それは自分の得意とするところでもある訳で、発してくれた言葉以上に感じられる想いに沢山の気持ちが伝わってきました。ここまでくるの、それなりに大変でした。でもここの大学で働くことができ、課題も山積ですが、それでもなんとかやっています。そんな心を届けてくれたことで、彼がなぜ私に話してくれたのか、少しだけ分かったような気がしました。表面上は分からない、でも僕みたいに苦悩を抱え、みんなの中に溶け込もうと頑張っている人達が沢山いる、普通でいようとすることがどれだけ大変なことか、当事者でないとなかなか分からないことです。あなたが働く図書館は、憩いの場であってほしい。誰もが安らげる場所、そんな気持ちを持っていてほしいという彼からのメッセージだったような気がしています。いつも謙虚な彼の姿を思い出すだけで、奥底からじわっと温かいものが流れてきて。彼の勇気を忘れるものか。

そんな経験を胸に、小学校の図書室へ。ある時、低学年の男の子が泣きながら図書室に来てくれたことがありました。内容を話したがらず、書架を背もたれにし座り、周りに気づかれないようにそっと泣いているので、こちらもしゃがみ込み、ただずっと頭をなでていました。すると、同じクラスの女の子が、事情を教えに来てくれて。どうやら、クラスの中で何とも言えない寂しさを抱えることがあったらしく、みんなはそんなつもりがなくても本人は孤独を感じてしまったよう。受け取り方、感じ方は人それぞれ。周りに悪気がなくても、本人が悲しくなったのならその気持ちを和らげたくて、落ち着くまでここにいていいよと微笑みながら伝えると、ほっとしてくれました。事情を話してくれた女の子に、担任の先生への伝言をお願いすると快諾してくれて。先生もね、転校した学校では色々あった、だからあなたの辛さなんとなく分かるよ。そんなことを思いながら、心が凪いでいくまでそばにいて、なんでもない話をしていると、手の甲で涙を拭き、微笑んでくれました。良かった、笑ってくれた。あなたの居場所はちゃんとあるよ。その後、教室へ戻ると言ってくれたので、後から女の担任の先生に伝えると、話してくれました。「きっと、S先生の顔を見て、ほっとして我慢していた気持ちが溢れ出したんだと思います。そばにいてくれてありがとう。」担任の先生が、温かくて器の大きな先生で良かったね。

顔を上げると、図書館の大きな窓が目に飛び込んできました。色々あったな、本当に色々。見えてくるんだ、その人が何を思い、どう感じているのか。深呼吸がようやくできた、そんな場所であり続けたい。そういった気持ちを抱きながら、息子の野球チームへ。すると、お片づけの時間になり、キャプテンが男性の役員さんに向かって、「消毒おじさんが来た!」と言って笑ってしまいました。練習の終わった皆に、スプレーでプシュー。そして、整列した時に一番小さく最年少だった息子が、もう真ん中ぐらいに。グラウンド、そしてコーチに向かって帽子を取り、挨拶する姿も様になっていて、泣きそうになりました。大きくなったね、そんなひとつひとつの出来事が、その瞬間がもう過去になっていく。これまで出会った沢山の人達は、どんな人生を送っているのだろう。同じ空を見上げて、今日も微笑んでくれていたらいい。