帰省の前日、天気予報を見ると生憎の雨だと分かり、息子に伝えました。「明日新幹線に乗っても雨であまり景色が見えないよ。だから帰りに新幹線に乗らない?」「う~ん、ボク早く新幹線に乗りたかったけど、それでもいいよ!」と同意してくれたので、行きは両親の車に便乗することに。朝5時に起き、6時に迎えに来たので慌ただしく用意を済ませ、いざ名古屋へ。何年ぶり?実家で指しゃぶりをしていた息子の写真があるから、8年前ぐらいかな。堪らない気持ちになりながら、後部座席で眠りにつきました。その後、静岡のサービスエリアでマメ柴のマメジローをゲットした後、刈谷のサービスエリアに着くと、名古屋めしが売っているコーナーがあり、買い占めたい衝動に駆られ、懐かしさがこみ上げてきました。えびせんを山盛り買う母、どさくさに紛れて試食する息子、その様子に笑いを堪えながら、愛知県に入ったことに胸がいっぱいでした。そして、母の友人である保険会社の営業の方とお会いする為、三重県に近いお店まで送ってもらいました。父とは一旦お別れし、久しぶりに再会すると嬉しそうにしてくれて。「Sさん、すぐに分かりましたよ。変わっていませんね。」公私にわたって母を支えてくれた人、あなたがいてくれるから母は笑っています、ありがとう。彼が勧めてくれていた入院保険のおかげで、私の入院費はプラスになる程カバーされました。病院のベッドの上からメッセージを送ると、すぐにかけてきてくれた電話。留守電に入っていた声は、とてもあたたかかった。そんな感慨にふけりながら、私と息子もひつまぶしをご馳走になり、感激の時間はあっという間に過ぎ最寄り駅まで送ってもらいました。よく見ると、そこは近鉄の駅。まさか、近鉄で名古屋駅まで行くことになるとは思わず、姉のいた大阪、難波から名古屋駅に向かう車内を思い出し、泣きそうになりました。ひとつひとつがどうしようもなく懐かしくなる。
名古屋駅のビルが目に飛び込み、到着。相変わらずすごい人で、母が伝えてきました。「お父さんが、Rにナナちゃんを見せてこいって。」地元の人は盛り上がるかもしれないけど、わざわざ見せるものでもないと思うんだけどなと半笑いしながら、息子に紹介。それは、名鉄百貨店セブン館の前にあるでっかいマネキンのナナちゃん。待ち合わせ場所に使われ、着替えもするのでみんなの人気者でした。ざっくり息子に説明して見せたものの、「ふ~ん。」という返事。予想通りのリアクションをどうもありがとう。それから、駅前をうろつき、地下鉄で栄へ。久しぶりに乗る黄色の東山線を見て、学生時代が見事に蘇ってきました。振り向くと、そこにクリアケースを持った大学生の自分がいるようで。全てが糧になり、心の中に蓄積されていった時間。東山線は名古屋市内の真ん中をまっすぐ突き抜けていくので、分かりやすく、まるで年表みたいだと思っていました。そこには自分の歴史が詰まっていて、淡く懐かしい思い出が駅名と共に浮かび上がり感無量でした。さてさて、栄に着いたものの、地下が発展していることを思い出しながら右往左往。地図を見てようやく目的地に着き、栄のど真ん中にある観覧車に乗車。変わらない部分とビルが沢山増えた街並みに嬉しくなりながら、あっという間に終了し、家族会議へ。雨だし、ママのいる小料理屋までは一区間、行くところもないから歩いてしまおうと私が提案し、傘をさして3人で向かいました。開店時間より早く着き、中に入ると何にも変わっていないお店の雰囲気に胸がいっぱいでした。「あら~、Sちゃん!今卵を流しこんじゃって、あまり振り向けなくてごめんね。久しぶりの再会なのに背中向けちゃって!」と変わらないママの気遣いと優しい声に涙が溢れそうになりました。母から事情を聞いていたママは、アイコンタクトで包んでくれて。「こんな大きい子のお母さんなのね!」出会った時はまだ大学生。着物を着て働く日本料理店の頃の私を知ってくれている人。22年経ち、小学生の男の子を連れてくる私を見る眼差しは温かく、それはどこかで母親の目でした。Sちゃん、大丈夫よ。あなたなら大丈夫。そう伝えてくれているようでした。今年のお誕生日プレゼントは母と花の時計を選び、去年郵送したプリザーブドフラワーはお店のど真ん中に飾ってくれていました。懐かしいママの料理をお座敷で食べ、常連のお客さんとの声が聞こえてきて。「明日、ママの誕生日だから何かプレゼントを買ってこようと思ったんだけど、雨がすごくてごめんね。」「そんなお気持ちが何よりのプレゼントよ!」そう言って優しく微笑むママとお客さんとの温度が堪りませんでした。この人に注いでもらった愛情は格別だったんだ。
そして、別れの時。ふんわりとした淡い黄色の着物を着ていたママ。この中にずっといたいなと思っていても、私には母親と娘の役割が待っているから帰らなくては。「ちょっと待ってね。今お料理を作っているから。」その後ろ姿を忘れないでいようと思いました。少し慌てて目の前に来てくれたママ。「お誕生日プレゼントありがとう。これね、熱田神宮でお守りを買ってきたの。体大事にしてね。これは、R君に縁起のいい飴のプレゼント。これはお母さんにお菓子。」そう言って一人一人に渡してくれる姿を見て、心のタンクがいっぱいになりました。「ありがとう。ママも体に気を付けてね。」そう言ってハグをすると、堪えていた涙が一滴溢れました。あの時感じたふんわりしたママの大きな愛と温もりを、忘れることはありません。自分の最期に思い出すのは、もしかしたらこんな瞬間なのではないかと思いました。あなたの心の娘でいられて良かった。母とも仲良くしてくれて、息子の頭をなでてくれ、笑顔でバイバイしました。なんて優しい別れ。
その後、感極まっていたので慌てて乗った地下鉄は、まさかの栄方面。せっかく一区間歩いたのに、また栄に戻っていて二人から大ブーイングでした。「あなた名古屋の子なのに。」いやいや、厳密に言えば名古屋の子だったんですよと心の中で思いながら、栄に着いた途端、目の前には名古屋行きの地下鉄が来て二人を誘導し、ナイスリカバー!と自分をフォロー。あっさり名古屋駅に着き、夜のコンコースを歩き、酔って帰った学生の自分がやっぱりそこにいるようでした。ふと隣を見ると、早くホテルに行きたいとブーブー言っている息子がいて、私もお母さんになったんだななんて、笑えてきて。ようやく出た名古屋駅西口。見慣れた景色を通り、ホテルに辿り着き、翌朝スマホを見ると、ママからメッセージが入っていました。『久しぶりに会えて嬉しかったわ。大人のSちゃんでした!人生いろいろ、先輩の私から一言「子供の為にがんばれる」心身共に一番大変な時です。心から応援してます。素敵な花時計大切にします。頑張っていればこんな幸せな日があるのよ。』大好きなママ、あなたとの再会は私の歴史に大きく刻まれました。大きな愛、人を優しく包むこと、何よりあなたの笑顔が好き。また会いたい、その日までがんばるから。名古屋の旅、続くよ。