ひと呼吸置いてみる?

気温が乱高下していたここ最近、息子の首が随分荒れていることに気づき、伝えました。「肌荒れが出てしまっているから今かゆいよね?」「うん。でも首だけ。」そう言って、あまり聞かれたくないようだったので、保湿クリームを渡し自分で塗るように促しました。錠剤も、塗り薬も、小児科も何もかも嫌がる息子に苦戦してきてはや12年。彼の気持ちを尊重しつつ、それでも悪化させてはいけないので、できるだけやんわり事が前へ進むようにサポートをしているつもりでも、言い過ぎたと反省の日々。そんな中、きちんと塗れているか気になったので、パジャマを脱ぐように促すと渋々見せてくれました。すると、思いがけず広がっていることが分かり大慌て。水ぼうそう?いや、ちょっと違うなと思いながら母子手帳をペラペラ。予防接種は打っていたし、かかる年齢も過ぎているような・・・とあれこれ思考を巡らせ、たどり着いたひとつの仮説。最初は首だけだったということは、花粉の付着が原因じゃないかと本人にも伝えてみると、納得の様子。「熱もないし、花粉シーズンが始まってからだよね。とりあえず花粉症の薬も切れるし、小児科に行こう。」と話し、学校が終わってから二人で向かいました。すると、いつもの穏やかな先生が待っていてくれて、診察室に入った途端もう治った気がして。人の持つ雰囲気って大事だな、そう思いました。案の定、花粉が原因だろうということで、飲み薬も塗り薬も沢山出してもらい、ほっ。子供達を不安がらせないようにマスクも付けず、いつもラフなポロシャツでいてくれる先生。その頭上には、アンパンマン達のフィギュアがいつも飾ってありほっこりしました。先生、シングルママになったこと、おそらくカルテから気づいてくれましたね。さりげない気遣いから分かりましたよ、いつもより薬の量が多かったから。これだけあったら安心できる?そんな先生のメッセージを感じました。優しさは、誰かの心をあたためていく。

小児科の看護士さん達は、いつも変わらず息子の名前をフルネームで呼んでくれました。それは、どれだけ歳を重ねても、漢字ではなくひらがなで呼んでくれているような柔らかさで。籍を抜く時、散々悩んだ旧姓に戻す可能性の話。今となっては、そのままにして良かったのかもしれないなと思っていて。名字を変えていなくても新しい戸籍を作ってそこに入るから、それは新戸籍なのだと弁護士の先生が言ってくれたことも大きかったのだと。あとは、自然に任せようと思います。最近になり、急に自分が交通事故に遭った日の夜のことが蘇ってきました。自転車に乗っていたら一時停止無視の車に吹き飛ばされ、救急車で運ばれた後、左肩を強打していたものの大事には至らなかったので、それなりに冷静に姉へ連絡。すると、大慌てで社用車を借り病院まで駆けつけてくれました。そんな時にも、父や母に連絡を入れないこちらの心境を彼女なりに感じ、それでも踏み込んできてくれて。「Sちんがこういう時に、別居しているお父さんに連絡を入れたくないっていう気持ちも分かる。でもね、人身事故なんだよ。後遺症だって出るかもしれない。相手がどう出るか分からないから、私からお父さんに電話を入れるね。頼りたくないのは分かる。それでも、交渉事はお父さんに任せた方がいい。こういう時、男性の存在って大きいと思うから。」いろんな感情が入り混じった姉のトーンに、泣きそうでした。こんな時ぐらい、本気で娘を守れ!ネネちゃんの怒り、知ってるよ。
その夜、なんとか帰宅すると、母とまだまだ微妙な空気の中にいた父はブスッとして、それでもきっちりスーツを着てやってきました。その後、ドライバーの若い女性は、ご両親と来訪し、母も交えて3対3で向き合うことに。すると、示談にしてもらえないかという話になり、父が眉間にしわを寄せ、タバコを吸い始めました。誰もが無言になり、とても長い一服に感じられて。そして、灰皿にもみ消すと、口を開いた父。「免許停止になるとか、点数に問題はないですかねえ。」と意外にも低姿勢でちょっと驚きました。「娘は、体を強く打ち付けたようで、今後またどんな症状が出るか分かりません。人身事故としてもらえるとこちらとしても安心なので、そういった形にしてもらえませんか。」口調は穏やかなのだけど、ほんの少し強さを感じるような、何とも言えない説得術であっさり話は終わりました。タバコをふかしながら、父の頭の中でフル回転していたのかもしれないなと。ジャケットも着ていたということは、銀行のバッチも付いていたということ。キラッと光っていたよ、それは父の誇りだ。まだ、籍は抜いておらず、別居していても同じ名字を名乗っていた父。用事が済んだら、母と会話したくなかったのかあっさり帰っていったのだけど、その日は存在に本気で助けられました。ワンポイントピッチャーなのか、代打の切り札なのか。ここ一番という時に、確実に助けてくれたことは沁みついている。だからなのかな、腹も立つけどありがとうが上回るんだ、それが父との長い歴史。

やることは山盛りあるのに、思うように体が動かない日が最近続き、久しぶりに雨も降ったので、お気に入りのスニーカーも濡れてしまい、仕方がないのでサイズアウトをした息子の砂だらけの靴を履いて美容院へ行きました。すると、とてもおしゃれな若い男性スタッフさんが担当になってくれて、さりげなく靴を見られる始末。やっちまったな!と一人反省会が始まったなんでもないひとときでした。手術も引っ越しも、息子が大泣きした日々も、数々の不調を乗り越えて今日がある。あの時の大変さに比べたらなんてことないなと、ひとつ深く呼吸をしたらちょっと笑えてきました。誰かと自分は比較しない、私が比べたいのは、過去の自分で、その上に乗っている今をたまには褒めてあげてもいいのかなと。いろんな方が悩みを話してくれて、時々ふと言われます。あなたの悩みに比べたら、私なんて大したことないと。人が抱えるものに、大きさなんて関係ない、その人が苦しいと感じる根元はなんだと一緒に考えたい。上からでもなく下からでもなく横から、悲しかったねって。私自身も課題はまだあるけど、ゆっくりしていってくださいと思う気持ちは司書の頃のままです。一息ついたらのんびり前へ。どれだけ時代が変わっても、ここにいられたなら。目の前にあるささやかな喜びを感じよう。