やり遂げること

秋と言えばサンマかなと、自宅で焼き、大根を下ろして、豚汁と共に息子と食べた夜。そう言えば、焼き魚は久しぶりだから、箸を使って上手に食べるやり方を教えた方がいいかなと思っていると息子が伝えてくれました。「ボクね、お魚うまく取れるんだよ。1年生の時、担任の先生が教えてくれたの。」そう言ってうまいこと取っていくので、驚きました。「すごい!お母さんね、元々左利きで幼稚園で矯正があったから、右手で箸を持ってもうまく使えないの。だから、Rの方が上手。先生に感謝だね。」そんな話でわいわい。「そう言えば、名古屋は赤みそだから、子供の頃にみそ汁も赤みそしかないと思っていて、他の土地へ行ったら驚いたことがあったよ。今日の豚汁は合わせみそ。なんとなく、この味にRは慣れている気がしてね。」「へえ、そうなんだ。そう言えばママ、牛肉が食べられないから、オーストラリアでどうしていたの?」「ホストファミリーにお世話になる前、苦手な食材を予め伝えていたのだけど、ホストママがすっかり忘れていて、カレーの中に大きなオージービーフが沢山入っていたの。こっそり端によけていたら、娘さんに気づかれてね。無理して食べていたら、夜通し吐き気と戦っていたかも!」そんな話で大盛り上がり。そして、以前父が言っていた話も思い出しました。佐賀にいた頃は、ラーメンはとんこつしかないと思っていて、名古屋に来たら驚いたと。18歳の父も、慣れない土地で頑張っていたのね。

そして昨晩、息子が学校で作ってきたスライムを一緒に練り練りしながら日本シリーズ第4戦を観て、ナイスゲームにヒートアップした後寝かせて一人になると、ふと祖父のことが思い出されました。おじいちゃんが最後に働いたのは、そう言えば水質汚濁を調査する仕事だったなと。食べ物も飲み物もとても大切にしていた祖父。戦時中は何もなかった、それが口癖でした。冷蔵庫を開け、コップに一杯の牛乳を入れて飲んだ後、うまいなと呟く祖父の言葉には何とも言えない深みがあって。シベリアで捕虜になった頃、出された飲み物は雑菌だらけでとても飲めるものではなかった、匂いですぐに分かった。それでも、飢えに耐えられず飲んで亡くなった者もいた、だからおじいちゃんは葉っぱに付いていた雨水などで凌いでいたのだと。そんな祖父が、毎回美味しそうに牛乳を飲む姿が好きでした。最後に働いていたのは、人が絶対に生きていく上で必要な水の調査、なんだかおじいちゃんらしいなと改めて思いました。残りの人生を思った時、少しでも社会貢献したかったのではないか、その水がどれだけ大事なのか知っているからこそ。そして、現場からまた別の現場へ行く途中で起きた大きな交通事故。見通しのいい交差点で、助手席に置いてあった作業内容が気になり、ちょっと目をやった後、前方不注意でダンプトラックとぶつかりました。車外に飛ばされた祖父は、電柱の合間を縫って田んぼに落ち、一命は取り留めたと後から警察官の方が説明してくれて。血に染まった作業着、それでも祖父は何か咄嗟に身を守ったのではないか、その生き様を忘れないでいようと思います。その後長く続くリハビリも、諦めなかったことを。
さらに遡ること子供時代、祖父の4人程の囲碁仲間が土曜日の夜になると、各家庭を順番に周り、深夜まで囲碁を打つという和やかな集まりがありました。我が家の番になると、おじいちゃんのお友達が時々ミスタードーナツを買ってきてくれて。開けるといつもなぜかオールドファッションやチョコファッション。せっかくならもう少しバラエティ豊かに選んでくれたらと子供ながらに思ったものの、その気持ちが嬉しく毎回喜んで頂いていました。そして、コーヒーやお菓子を運び、いつも囲碁部屋になるその空間はたばこの匂いと、談笑と、囲碁を打つ音があり、その何とも言えない昭和の雰囲気が好きでした。父が子供に関心がなくとも、そこにあった温かみ、Sちゃん大きくなったね、学校はどうだい?こんな言葉もまた私にとって養分だったのかもしれないなと。チョコファッションを見る度、微笑みたくなるのはきっとそういうことなのだろう。

今年の夏休み、息子と駅方面に行った帰り、たまたまお祭りをやっているのを見かけ、綿菓子がどうしても食べたいというので長い列を並びました。すると、思いのほか前に進まず、近くのベンチに息子を座らせたものの、ずっと立っていたので、調子が悪くなってしまい困惑。そんな時、たまたま『東京音頭』が流れ、ヤクルトファンの方達と神宮球場で息子と盛り上がる時間を思い出し、なんだかぐっときて。少し気が紛れると、今傘を開きたい衝動に駆られた方はヤクルトファンだろうなと嬉しくなりました。その後、無事にカップに入ったレインボーの綿菓子をゲット出来て、息子はご満悦。こんな何でもない時間を、何でもない瞬間に彼は思い出すことがあるのだろうか。幸せはあなたの心の中にあるよ、その言葉の意味、分かる時は来るだろうか。二人だけの舟に乗った、その航海は後悔ではなく、大海原の中にいる喜びと、そこで感じるものは果てしなくて。穴が空いたらどうする?それでもやり遂げようよ、目的地に着くまで。あなたのひいじいちゃんがそれを教えてくれたから、心を込めてこの気持ちを渡す。