何が大切?

二人で盛り上がっていた夕飯時、『鬼滅の刃』の話になり、息子が続きを話そうとしたので全力で止めました。「図書室に鬼滅の刃の本が置いてあって、ボク全部読んじゃったんだよ。最後の方は感動した。ぐふっ。」とネタバレをしたくて仕方がなさそうだったので、「絶対に続きは言わないで~。」とわいわい。「ボクね、テレビで見るのもいいんだけど、やっぱり本の方がいいなって思った。自分のペースで読めるし、そこでどう感じて、何を思ったのか自分で止まって考えることができるから。」その言葉を聞き、私の持っている感覚とあまりにも似ているので驚きました。自分のペースだからこそ入ってきやすい、心が震えた時、その時の気持ちを大切に持っていたいって思うんだよね。「お母さんもそうだから、なんだか嬉しいよ。本を読みなさいとかうるさく言いたくないから、Rが気に入ったものを自分が読みたい時に手にするのが一番いいのだと思う。」「うん。『がまくんとかえるくん』のシリーズ(作:アーノルド・ローベル、訳:三木卓、文化出版局)、新しいのが出たから読みたいんだけど、図書室ね、予約でいっぱいなの。ママも好きだから借りてきたいんだ。」「あらあら、それは読みたい!」「新しい登場人物も出てくるんだよ~。」「え~、誰だろう。」と二人で本の世界へ。まだ読んでいない物語の想像を楽しみ、豊かさってこういうことを言ったりもするのかなと嬉しくなりました。2年生の国語の教科書に出てきた、がまくんとかえるくん。彼らの友情はあまりにも優しく、あたたかく、コロナ禍で滅入っていた気持ちをそっと和らげてくれました。表紙を見たら、息子の音読が聞こえてくるだろうか。教科書を読みながら、脇役のかたつむりくんについて語り合った懐かしい記憶が蘇ってきました。思い出の本が、こうしてまた一冊増えていく。

引っ越し前に出会った引っ越し業者さん。ご自身が仕事から疲れて帰ってきた夜、子供達も奥様も荷物も無くなっていて、呆然とした後の話をふとした瞬間に思い出しました。彼は常に別れた奥様とお子さん達の幸せを願っていた。幸せにできなかったのは僕の責任なのだと。ぎりぎりの精神状態だった私に、なぜ彼はファーストネームで呼んでくれたのだろうと改めて考えてみると、ひとつの答えが見つかりました。“ここからあなたは飛び立ちます、お子さんと一緒に。きっと沢山自分を責め、それでも後ろを振り返ることなく必死に進むでしょう。新居に行き、近いうちに名字も変わります。それでもね、あなたはあなただから。”大きな大きなメッセージを残していってくれたのだと思うと、泣きたくなりました。引っ越しの当日、若い男性のスタッフさんが二人来てくれて、一人はスピッツのボーカル草野さんに似ていました。ぜひ『空も飛べるはず』(作詞作曲:草野正宗)を歌ってください!と何度言いかけたことか。そんな楽しい時間が流れ、みんなで盛り上がり、引っ越しは無事に終わりました。あっという間に片付けた数日後、見積もりを取りに来てくれたスタッフさんと、当日来てくれた男性の三人にお礼のチョコレートを郵送。すると、電話がかかってきたのですが、彼の器の大きさを知っていたので、声を聞いたら泣いてしまいそうで、敢えて取らずにメッセージを送りました。すると返信が。『みんなで美味しく頂きます!ありがとうございます。これから良いことが沢山あると思うので楽しんでください。あまり無理をなさらない様にしてくださいね。』無理をしていたことはバレバレで、この苦しさを乗り越えたらいいことが待っているよと、最後の最後まで伝えてくれた彼の人としての大きさとぬくもりを忘れないでいようと思いました。山盛りのチョコレート、三人で山分けしてくれただろうか。仕事で疲れた後に、もぬけの殻だった自宅の寂しさではなく、事務所に届いたお客さんからのチョコレートで、スタッフさんの辛さが薄れていってくれたなら。笑って生きていたら、こんな小さな幸せもあるのだと。それを見落とさない人だから、感謝と共に贈った気持ちでした。いい出会いだったな。

ようやく立ち止まれた今、色々なことが見えていたら、高校3年の時に、姉が大阪に大学を決めて一緒に住もうと言ってくれた気持ちにどう答えていたか、もう一度考えてみました。答えはノー。「家族ごっこをやっているのは分かっているし、お母さんの人生を歩んだらいけないし、私は私の道を行く。お姉ちゃんの気持ち、とても嬉しかった。めちゃくちゃ嬉しかった。でも、お姉ちゃんにはお姉ちゃんの人生があるから、妹の心配ではなくて自分の為に生きてほしいよ。高くないお給料で、ブランドの服やバッグを買って、同期のみんなに合わせようとしてるの知ってる。女子寮を出て、アパートに住んだら、家賃がもっとかかって、お姉ちゃんが妹の為に働くことになる。それはできない。もっと自由に飛んでほしいんだ。家族に縛られることなく、お姉ちゃんにはもっと空を飛んでほしい。私は大丈夫だから。自分の人生を歩くから、安心して前に進んでね。」大阪にいた姉にこの言葉を伝えられたら、ネネちゃんはなんと言ってくれるだろう。「Sちん、未来から来てくれたの?42歳でやっと気づいたか~。長かったね。その道のりきっと大変だったよね。でも、きっとSちんらしく沢山の人に出会って、沢山助けられて、沢山幸せもらって、それはそれで満たされていたんだろうね。そんな中でようやく気づきがあって、本当の自分を見つけたんだね。S、いい?これだけは伝えておく。この先、どんなことが待っていようとも、私はあなたのお姉ちゃんだから。それは忘れないで。」そう言ってくれたのではないか。本のような世界が日常の中にあって、日常が本のようで、現実は苦しくて、輝いていて、大きな泉に助けられたりする。何が大切?答えは、もっとシンプルなのかもしれない。瞳が潤んだ時、本心と向き合えるのかも。泣いた後に笑った一歩を今日も大切にしよう。