少年野球の前夜、息子がぽつりと聞いてくれました。「ママ、ライト前にボールが落ちた時、どこに投げたらいいの?」と。「ファーストに投げることが多いと思うけど、ランナーがいた場合、ホームベースに突っ込んでいく可能性もあるから、その時の状況で投げる場所を変えるんだよ。」「そうなんだ。反応が遅れると、怒鳴ってくるおじいちゃんコーチがいてね。ボクがヒットを打って本当は2塁まで狙えたのに1塁で止まった時も、かなり怒られたの。ボク、その人苦手なんだよ。」「コロナの影響で休みも多かったし、ルールが定着していないから、不安になっちゃったんだね。お母さんが見学に行った時もそのコーチがいてよく怒っていたから、その辛さ分かるよ。でもね、R一人に個人攻撃しているならいけないけど、みんなに対してだよね。これも社会勉強なのかもしれないと思って、行けそうなら頑張って行っておいでね。」「この年でそういう人に出会うの、まだ早いよ~。」とブーブー言っているので、思わず笑ってしまいました。叱ってくれているのではなく、明らかに怒鳴っているだけという雰囲気を醸し出されたら、そりゃ憂鬱になるよねと思いながら、明日の朝また決めようと穏やかに寝かしつけ、一日終了。
翌朝、やっぱり気の乗らない息子がいたので、お母さんとゆっくりルールを覚えようかとお休みすることにしました。が、すっかり安心しきってしまい、ソファでずっとテレビを見ているので、冷静に小爆弾を落とすことに。「Rが野球に行くと思って、今日は大掃除をする予定だったの。行かないなら仕方がないけど、それで終わりにするんじゃなくて何か一つ頑張ろうよ。」こんなトーンじゃなかったな。まあそれはいいとして、洗面所の掃除を始めると、息子が私の服の胸元にペタッと何かを貼り付けてきました。「今日はボクがミニママで、ママが子ども。だから名札を作ったの。」よく見ると、『子ども(R)』と息子の名前と共に書かれていて、彼の胸元にも『ミニママ』とあり、笑ってしまって。「今日はボクが掃除するから、ママは休んでいてね。」「それは嬉しい。助かるわ。」と言いながら、一緒に掃除をすることに。ひと段落したところで昼ご飯にし、宅急便屋さんが来たので慌てて出ると、若い男性の方がふふっと笑ったような気がしたのですが、気にせずお礼を言って荷物を受け取り洗面所へ。すると、鏡を見て、名札が付けたままになっていることに気づき、大騒動。騒ぎに気づいた息子にも説明すると、大爆笑をされてしまって。「ママは今日“子ども”だからね~。」「超恥ずかしかったんだけど!あの人何やっているんだろうって思われなかったかな。」大丈夫大丈夫と慰められ、珍日曜日は終わりました。そんな次の日、学校から持ち帰った宿題のプリントには丸つけされた先生の文字が。自由コーナーに、息子が書いた『好き』の漢字練習4つが横に一行並べられ、右上には赤で『好きやで~』という先生の絵文字付きコメントを発見し思わず吹き出してしまって。先生への告白ではないことはもちろん分かっていたのだろうけど、とことん乗っかってくれる人柄に嬉しくなりました。先生が泣く時ってどんな時なのだろう。沢山泣いた時期があったから、今こうして弾ける明るさを届けてくれているのではないか。先生の中に揺るぎない強さを感じ、こうやってまた一年間助けられていくのだと思いました。広島東洋カープの選手、誰が好きですか?と息子に伝言をお願いしようか。張り切って答えてくれるかもしれない。
姉の仕事復帰前に会った時、伝えてくれました。「お母さんは、Sちんに嫌味を言うことでコントロールしようとするところがあるように思う。Sちんが凹んだり、これ以上言われないようにもっとお母さんのことを考えなきゃって動くから、お母さんの中で成功体験になってしまっているんじゃないかな。お父さんって打っても響かないでしょ。面倒くさくていつもスルーしているよね。だから、お母さんも諦めているんだよ。Sちんさ、もうお母さんの評価はいらないんじゃない?いい娘でいる必要はないんだよ。R君にとっていいお母さんでいること、それで十分な気がするんだ。いつか大きくなって母の日にプレゼントが送られてきたら、いい母親でいられたのかなって思うかもしれないし、プレゼントがなくてもSちんはいいお母さんだよ。私ね、Mちゃん(義兄)ととことん分かり合うのは難しいのかなって感じたり、ママ友との距離感も分からなくて、多分私は冷たい人だと思われていてね。でも、こういう話を聞いてくれて、本当に有難くてね。こんな私でごめんなさいっていう気持ちからは抜け出せた気がしているよ。」そう言って柔らかい表情で笑ってくれました。あなたの心はあたたかいよ、それは私が知っている。
母の日の数日前、息子がはいっと言って手作りのプレゼントを渡してくれました。それは、仲良しのD君と学校帰りの遊び場で作ったカーネーションで、去年よりもバージョンアップしていて、ポロポロ泣けてきて大変でした。飾られたティッシュの箱には二羽の折り鶴が。一緒に羽を広げて大空に飛ぼう。息子にお礼のハグをすると、伝えてくれました。「母の日まで待とうと思ったけど早く渡したかったの。」ママが喜ぶ顔が見たかったから。そんな気持ちが届き、いつも笑っている自分でありたいと思いました。この日を忘れることはありません。
そして、小料理屋のママが母の日に連絡をくれました。『焼き菓子が届いてビックリ!幸せをありがとう。息子達からは何も無いのに、思いがけず嬉しいです。優しいSちゃん、心身ともに気を付けてね!』大したものを贈った訳じゃないのにこんなにも喜んでくれる人がいて。プレゼントがなくても、息子さん達はママからもらった気持ちを心の中できっと大切にしているよ。血の繋がらないママが私を包んでくれた愛は消えることなく、この先も心を守ってくれる。今度は息子に渡すから。「大丈夫よ。」そう言って息子にハグをする温もりは、ママの温度と重なった。自分が自分でいられることを教えてくれた人、『さくらdeカフェ』の原点がここにある。