人の手

毎晩、隣で息子の宿題を教えていたら、急に伝えてくれました。「ママの手、大丈夫?血が出ているよ。」と。毎年冬になるとすっかり乾燥して、どれだけハンドクリームを塗っても手を何度も洗うと落ちてしまい、赤切れが酷くなるのですが、痛みも血も慣れてしまったので、私にとっては普通のことでした。まさか、そんなところにまで気づいてくれるとは思わず、「気にしてくれてありがとうね。大丈夫よ。」そう伝え、頭をなでるとさらに続けてくれました。「ボク、いつも心配しているよ。ママ、よくお薬飲んでいるから。」病院にもついてきてもらっているし、調子が悪そうにしている姿も、薬を飲んでいる様子もそっと気づいてくれていたよう。ごめんねとありがとうを合わせたスペシャルハグ。その優しさが何よりのお薬。出産してから、悔しいぐらい体がうまく回らない時があるのですが、困ったことの一つや二つ、それは私だけではないので、ペース配分を大切に頑張ります。小さなマネージャーが、世話を焼いてくれるから大丈夫。
月に一度、猛烈にお腹が痛くなる時があり、それを息子に伝えると、「トレイに行ったら治るよ!」と毎回言われ、半笑い。そんな単純なことで治るなら、最初から行ってるわ!と思いながらも、そのおおらかさに助けられる毎日。

以前、ラガーマンのTさんからもらったハガキを、何に使おうかと考えて閃いたのが、ご本人のサインをもらうということ。受付にいた彼に恐る恐る近づき、「すみません、サインが欲しいんですけど・・・。」と言ってみると、「僕のですか?!」と笑いながら言われてしまいました。頷くと、ちょっと待っていてくださいねと事務室から太いマジックを持ってきてもらい、大きく書いてもらった後、本気で喜ぶと恐縮されてしまいました。人生で初めてもらったサイン。やっぱり直接ご本人に書いてもらうっていいなと、改めて思いました。その手で、どれだけのファンの方にサインをしてきたのだろう。ちびっ子たち、嬉しかっただろうな。

母が、まだ膝の入院中、複雑な気持ちのまま、手術の終わった姿を励ましに行こうと出向いた時のこと。ちょうど麻酔の切れたタイミングで部屋に運ばれ、痛い痛いと苦しんでいる母の足を布団の上からさすり、「お母さんよく頑張ったね。」と伝えました。あまりの痛さにこちらの声は聞こえなかったのか、何にもしてあげられないなと思っていると、貧血の症状が出てしまい、退室。父のフォローで何とかなり、青ざめた私の様子を不安げに見ていた息子も、おじいちゃんの手を握り、守られていることに安堵。
数日経ち、父は名古屋へ帰り、息子と母を見舞いに行くと、談話室で伝えてくれました。「二回目の手術は、とにかく足が痛くてね、あなたが来てくれたことは雰囲気で分かっていたんだけど、まともに話せなくてごめんね。あの時、お母さんの足をさすりながら、よく頑張ったねと言ってくれたでしょ。めちゃくちゃ痛かったんだけど、とっても嬉しかった。その後、お父さんから貧血を起こしたと聞いて、相当無理をさせてしまったのだと分かった。大変な中、来てくれてありがとう。」これが、コップの水の一滴なのだと思いました。わがままだし、言い訳大魔王だし、私の前では何でもありだと情けなくなることは山のようにあるのですが、母が伝えてくれるこの言葉だけは、本物なのだと、これが本来の姿なのだと、そう感じられるこの気持ちをやっぱり大切にしていきたいと思いました。私が枯れなかった、貴重な一滴。

「S、あなたはお母さんと距離を取っても、孫には会わせてくれていた。それは何よりの親孝行だと思ったよ。」そう伝えてくれた母は、布団の上からの娘の温もりを忘れずにいてくれるだろうか。