この間出向いたシェアオフィスの帰り、エレベーターを待っていると、後ろから声をかけてくれたのは、不動産関係のHさん。「今日は、チョコをありがとうございました!いやあ、本命チョコをもらえるなんて!」と満面の笑みで言われたので、「きゃあ、恥ずかしい!!」と二人でわいわい。お年玉の代わりに、気を使わせない程度のチョコをラッピングもなしでポンと渡しただけだったのですが、こんなにも喜んでもらえるとは思わなくて、感激してしまいました。でもね、前と少しだけ雰囲気が違うんだな。私が若干空元気であることを感じてくれている彼は、明るく振舞い、そっとその場を離れてくれました。いつも見守っています、そんな心の声を感じながら優しくお別れ。
そして、途中でカフェにでも寄り、両親宅で遊んでいる息子のお迎えに行こうと思ったのですが、父と話すいい機会だと思い、途中でサンドイッチとどら焼きを買って出向きました。すると、在宅していたのは父だけで、母と息子は買い物中だということ。仏壇にどら焼きをお供えし、祖父母に手術を無事に乗り切ったご挨拶。そして、副作用が強い薬を飲まなければいけないから、先にサンドイッチを食べさせてもらうよと父に断り、やっつけでもさもさ食べ始めると、ソファの上から色々と聞いてくれました。「どんな副作用が出るんだ。」「早い話が更年期の症状が出てしまっているんだよ。常に気持ちが悪かったり、眠れなかったり本当に色々。」「そうか、それはきついな。術後の痛みは?」「そっちは、大分落ち着いたの。今は副作用との戦い。お父さんの会社はどう?」「おお、ほとんどテレワークなんだけど、お父さんは総務と経理だから会社に行かないといけないんだよ。」「だったら、今度元気になったら社会見学に行かせて~。」「おお、いいぞ。」とあっさり快諾してくれて笑ってしまいました。社長は、父の従弟。そして、その従弟が、私がまだ岐阜の小学校にいた頃、遊びに来てくれたことがあり、ファミコンを直してもらったこともあって。その時以来の再会ができたら、それもまた感激の時間になるんだろうな。もう30年以上も会っていないのか。
そんな淡い約束をした週明け、すっかりいつものリズムを取り戻し、朝からシェアオフィスに来ると、お昼過ぎに受付でようやくラガーマンTさんに会うことができました。「Tシャツ届きました!本当に嬉しくて。薬物療法がきつくて心が折れそうだったので、感激して大泣きしてしまったんです。もう、永久会員になります!」「いやいや、そんなに喜んでもらえてよかったです。一年単位の会員で十分ですよ~。色々考えていて、自宅から大学とトップリーグのTシャツが見つかったんです。それで、会社にいるメンバーに渡して、できるだけ沢山の選手にサインをしてもらってとお願いしたんです。書いたの10人位でしたっけ?」「いえいえ、20人超えていましたよ。もったいなくて着られないです。」「是非着てくださいね。それで元気になってもらえたなら良かったです。」「はい、ありがとうございました!!」受付にいることも忘れて、テンションが上がってしまい、気持ちのいい時間が流れました。挫けそうな時、この2枚のTシャツに何度も助けられていくんだ。
気持ちが沈むと時々思い出す、入院中の就寝前に冊子を持って説明してくれた看護士さんとの時間。左の卵巣には腫瘍が二つ、右に一つあったことにより、右側も削られたこと、そして卵管二つも無くなったことに頭が混乱してしまい、思わず聞いてしまいました。「結局、今私の体にどの臓器が残っているんですか。」と。「右側の卵巣が半分ぐらいと、子宮は残っています!」と私の気持ちを奮い立たせるように力強く言ってくれました。「女性の臓器が無くなると、自分は女性ではなくなってしまったのではないかとおっしゃる患者さんもいます。そんなことは決してなくて、でもその辛さを私達看護士は、分かりたいって思っています。みんなそれぞれの方が、沢山の気持ちの中にいます。」頑張れでもなく、ただそばであなたが溢れ出す気持ちをそっと受け止めたいと願う想い。我慢しなくていい、泣きたい時は泣けばいい、でもそんな自分を卑下することなくその後には自分の為に笑ってほしい、だってこんなに辛い手術を乗り切ったんだもん。看護士さんから伝わるどうしようもない程の優しさに、減ってしまいそうになった心のコップがまた止めどなく溢れ出しました。
入院初日、痛みはあったのですが、まだ手術前でなんとなく元気でした。パジャマになって患者になったものの、何事もなかったかのように元気になって帰ろうなんて強がってもいて。そんな時、担当になったと言って挨拶に来てくれた看護士さん。沢山の書類の中で『卵巣car(がん)の疑い』とどこもかしこも書いてあり、開けるのが嫌で、看護士さんに必要書類を全部出してもらいました。そんな私の気持ちを察したのか、なんでもない話をしてくれて。「妹が今年成人式だったんですけど、無くなっちゃってやっぱり残念です。○○さんはここで出産されていますね。お子さんは今おいくつですか?」「小学2年生です。」「かわいいですね~。」大丈夫、大丈夫。会話の裏側に聞こえてくるもう一つの彼女から伝わる声。そして、翌日、手術の時間になり呼びに来てくれたのもその看護士さんでした。「○○さん、ゆったりとした気持ちでいてくださいね。」執刀するのは医師だけど、バックアップは私達看護士がさせてもらいます、そんな想いが伝わってきました。心のケアを一番してくれた彼女。夜勤明けに、検温をしに来てくれて、その時笑顔でその場を離れてくれました。もっときちんとご挨拶したかったなと思いながらも、それが私へのエールだったような気もしていて。現在も未来も繋がっている、臓器が無くなってもあなたはあなただから。そっとお別れしましょ、そんな気持ちが織り込み済みだったような気もしています。
人のどうしようもない苦しみに届いてくれた看護士さん、また今日も誰かを救っているに違いない。