夏休みも修学旅行も終わり、息子がふと伝えてきました。「1時間学校に行く時間が遅かったら、大分楽なんだよ~。」「ああ、分かるよ。8時に起きると体が動きやすくなるよね。元々Rとお母さんはそういう体質なのかもしれないね。社会人になれば、フレックスといって時間差で出勤ができる会社もあるし、Rのパフォーマンスが発揮しやすい道を選んでいけたらいいね。」そんな話でわいわい。夏休みはよく寝てくれたので、ぐんと背が伸びていて横に並んだらびっくりしました。156cmの私が抜かれてしまうのも時間の問題だな。声変りをした時は、何を思うだろう。ひとつひとつが自分の中に記録として残っていく。
そんな息子が、土曜日は珍しく友達と遊びに行かないことが分かったので、久しぶりにボウリングの予約を入れて、二人で行くことにしました。すると、指定されたレーンで向かい合わせになったのはお父さんと大学生ぐらいの男子学生さんで、そのお父さんがこちらに笑顔で会釈をしてくださるので驚きと共に嬉しくなり、こちらもぺこり。そして、息子と本気のボウリングが待っていました。が、随分時が経っていたのでお互いすっかり下手くそになっていて。それでも、私がスペアを取り歓喜して振り返ると、そのお父さんが手を叩きおめでとうございます!と伝えてくれるので、お礼を言いながら笑ってしまって。今日は参加型?!こんな和んだひとときもいいね。そして、お父さんがストライクを決めると、こちらも一緒に歓喜。初対面とは思えないあたたかい笑顔を向けてくれたお父さんは、いい年の重ね方をされたんだろうなと思いました。目尻の皺が、心の温度を伝えてくれているようでした。さりげなく画面を見てみると、お隣さんは15ゲーム目!投げ放題をやっていたんだなと、息子とこっそり微笑んだほのぼのとした空間でした。2ゲームをやり、スコア100越えができそうでできず、二人で撃沈しながらも笑ってお別れ。「ありがとうございました!」お互いにお礼を言い、エール交換。一期一会だな。
その後、小銭で少しだけメダルゲームをすると、息子が連打し過ぎてエラー音が。慌てて店員さんを呼び、謝って、息子に注意し直してもらった後、あっさりメダルが無くなったので切りのいい所で席を立つと、思いがけず一人の男性に話しかけられました。「あの~、もし良かったらこのメダル使ってください!」「えっ?」とこちらが慌てていると、続けてくれました。「僕達もう帰ろうと思っていて、メダルが余ってしまったので、もらってもらおうと思って。」よく見るとすぐそばには二人の小学生の娘さん達も頷いていて。「本当にいいんですか?ありがとうございます。」そう言ってカップを受け取ると、娘さんからも渡され、まさかの二つ分で驚きました。なんだかもうその思いに胸がいっぱいで。三人にお礼を言うと、気持ち良くその場を離れお別れ。隣にいた息子も本気で驚き、伝えてきました。「ママ、こんなにもらえると思わなかったね。今日はもうやめて、預けようよ。何枚なのか見てみたい。」彼らの気持ちの大きさを数字で見たいのかもしれないなと思い、常連だったのでメダルキーパーに預けてみると、表示されたのは535枚でなんだか泣きそうになりました。ものすごい数字だよ、彼らが届けてくれた優しさを忘れたらいけないな。帰り道、息子に伝えました。「前にね、Rとショッピングモールでカギを拾ってセンターに届けたことがあったでしょ。それが、今返ってきてくれたのかもしれないね。」「遅くね?」小学男子の素朴な感想に笑ってしまって。「人の気持ちって巡り巡っているんだよ。そんなに早く返ってくるわけじゃない。忘れた頃に、こんな形で戻ってきたとしたら、本当に嬉しいね。今日もらった優しさ、大切にしよう。」そう話すと、隣でにっこり笑ってくれました。ママといると、時々不思議なことが起こるな、そんな表情を浮かべながら。
それはね、マブダチK君が教えてくれたこと。「今日、パチンコで負けたんだよ。お前にメシ奢ったら、勝てるかもしれん。今から食いに行くぞ!」と会って早々に言われ、本当にご馳走になり、散々語り合ってバイバイした日。後日、もう一度彼に会い、その後どうだったかを聞いてみると「勝った!」と満面の笑みで報告してくれました。同窓会でもいつもみんなより多く支払ってくれて。「こういうことをしているから勝てるんだよ。俺が誰かに奢らなくなったら絶対に負ける。Sって本当にいつもお人好しで、都合よくお前の気持ちを利用しようとする人がいると、腹が立って仕方がない。でも、みんながみんなそうじゃない。Sがやっていること、回り回って返ってくるぞ。パチンコやって勝てている俺が言うんだから間違いない。」K君の哲学に、もしかしたら何十年も助けられていたのかもしれないな。
随分前、同じ男の子ママの姉と議論をしたことがありました。すると伝えてくれて。「Sちんは“目には目を歯には歯を”という考え方を持っていない。やられてもやられっぱなし。でも、女の子だからなんとかなってきた部分もあるんだと思う。だけどR君は男の子だから、そういう訳にもいかない時があるんじゃないかなって。男社会はやり返さなきゃいけない時もあるんじゃないかって思うんだ。Sちんを見ていたらきっとR君もそうなって行くよ。Sはめった刺しにあってもやり返さないから。でもね、そんな姿を見ている時、子供として辛いなって思うこともあると思う。そのことは忘れないでいてね。」ネネちゃんの沢山の気持ちが流れ込んできた日。母にやられないように、目一杯の武装をした姉。そして無防備だった妹。見ているのは苦しかったはず。「男社会の大変さ、私にはよく分からない部分もあるかもしれない。でもね、Rはこちらの失敗も見て、ママばかだなと思いながらも、自分のやり方を見付けて行ってくれる気がするんだ。やり返すのではなく、強みを活かしていってくれたらと思う。」そう話すと、Sちんらしいなといった感じで笑ってくれました。それから数年、我が家のルイージは逞しくなりつつあるよ。535枚のメダルの意味をきっと分かっている。ひと財産は息子に残せないかもしれない、それでも心の豊かさは彼の中で育まれていると願って。あと何年、同じ時を過ごせるだろう。