やっぱり花でしょ

シェアオフィスでお世話になった受付の可愛らしいスタッフさん。予めラガーマンTさんから彼女の退職日を聞いていたので、その日は難しいことがわかり、前日のランチの帰りに花屋さんへ寄りました。色んな花があり、お店に入っただけで華やいだ気持ちになって。どれにしよう、やっぱり自分の好きなガーベラかな。そして、彼女のイメージを考えた時にぱっと頭に浮かんだのは赤でした。ミニブーケにリボンを付けてもらい、準備は万端。嬉しくなってオフィスまでの道のりをお花片手に歩きました。まるで、自分が誰かにもらったみたい。赤いガーベラの花言葉は『神秘』。なんだか美しいな。

そして、タイミングを見計らっていると、話せる側のスペースにそのスタッフさんが入っていくのが見えたので、今がチャンスと思い、追いかけました。すると、その様子をTさんも、不動産関係のHさんも気づき、近くでそっと見守ってくれてそれだけでこみ上げるものがあって。「○○さん、退職されるって聞いて、本当に今までお世話になりました。」そう言ってブーケを渡すととっても喜んでくれました。「ありがとうございます。なんだか女性らしいプレゼントで嬉しいです。」「僕からでもあります!」ははっ。どさくさに紛れて乗っかってきたHさん。「Tさんの気持ちも入っています!」とさらに付け加えるので余計に笑えてきて。「もう、みんなの気持ちが入っています!」そう言うと、陽気なHさんが伝えてくれました。「僕達○○(私の苗字)ファミリーなんで。」いつから??男性二人が家族のようになってくれているなんて、感激。
「退職されて、ファンの皆さん泣いちゃいますね。」「いえいえ、○○さん毎日来てください。もう、急に来なくなっちゃうんだもん!」「実は、入院と手術をしていたんです。」「ええ!!」とひとしきりガールズトークが始まり、男子二人はそっと離れてくれました。いい別れ。いつまでも、赤のガーベラが似合う女性でいてください。

そんな翌日、ある一本の電話が。「Sちゃん!」ああ、小料理屋のママだ。その懐かしく温かい声に、涙が溢れそうでした。実は、ママの誕生日を知っていたので、お店の20周年の記念も兼ねてプリザーブドフラワーを送っていました。手入れがしやすいようにドーム型。そして、淡いピンクのお花が中には入っているはず。「もう本当にびっくりしちゃって。覚えてくれていたのね。ありがとう。お花大好きだからとっても嬉しかったわ。」「喜んでもらえて良かった。ハガキに、20周年でお店を閉じますって書いてあったから、なんだか寂しくなったのと、ママにお疲れ様の気持ちを届けたくて。」「今年じゃないのよ~。2年後にビルを取り壊す話があって、それが20年の節目だからそのタイミングでって思ったの。」「まだ日にちがあって良かった!コロナで大変な時にも、お店を頑張っているママ、本当に凄いなっていつも思っていたの。」「大変なのはうちだけじゃないから。常連のお客さんに助けてもらって、なんとか食べていけるだけのことはできて、沢山の人達に支えてもらっているの。」この控えめで優しい彼女の言葉は、開店前と何も変わらず、このお母さんに沢山心を育ててもらったのだと実感しました。「実はね、年賀状を出せなかった数年前、脊髄の手術をしていて、手足が前よりも思うように動かなくなったの。それでも、お店に来てくださるお客さんがいてくれるから、ゆっくりでもお料理を作っていて、本当に年には敵わないわね~。」と、いつもの明るい声で笑ってくれました。「お体大事にしてね。実は私も年明けに卵巣一個摘出して、今も片方の治療中なの。」「あら、まだ最近のことじゃない。Sちゃん、気持ちが沈むと免疫力が落ちちゃうからあなたこそ大事にしてね。お店が閉まる前に、良かったら顔を出して。」「うん、会いに行かせてね。自分が苦しかった時、どれだけ助けられたか分からないよ。」そう伝えると、色んな思いがこみ上げ、声が震えてしまいました。「あなたは、本当にそのままね。なんだかそれが嬉しかった。」その言葉を聞き、再会を約束して電話を切ると、ポロポロ泣けてきました。20代前半、家族のことで疲弊していた私に、どれだけの言葉をかけてくれただろうと思うと、“誰かの幸せではなく、あなたの幸せを願っている”と伝え続けてくれたママの愛をずっともらいながらここまで来たのだと思うと、人を大切にする姿勢を受け継ぎたいと心から思いました。お店を閉じても、ここでママの精神を伝えていくんだ。

息子と遊んでいた、幼稚園の頃。一緒に公園へ行くと、背中に何かを隠し、「ママ、プレゼント。」と言って渡してくれたのは、たんぽぽでした。なんだかその行為がとっても嬉しく、満面の笑みでありがとうと受け取ると、彼もまたビッグスマイルで喜んでくれました。
大学図書館時代、信頼している仲間だからこそ、ふとした瞬間に弱音を吐いたことがあって。「実家にいた頃、頑張って咲こうとするのだけど、なんだかぐしゃって踏まれてしまうことが何度もあって、自分はたんぽぽかもしれないなって思いました。悔しいから、もう一度咲くのだけどやっぱり踏まれて、でも、地面でひっそり咲こうとする私を大切にしてくれる人達がいて、だからこうしてここにいられているのかなって。」そんな私の話に皆は驚き、そして温かく包んでくれました。“私達もあなたの価値を知ってるよ”そんな言葉が聞こえてくるようで胸がいっぱいでした。息子からたんぽぽを渡された時、色んな思いが駆け巡り、ボクもママのこと見てるよって言ってくれているようで、堪りませんでした。

「Sちゃん、今何のお仕事しているの?」と小料理屋のママ。「パソコンから記事を書いているの。」「あら、今どきね~。」と言われ、一緒に笑ってしまいました。23歳の誕生日、恋人もいない私に大きなケーキを買い、デートしましょうと言ってお花の綺麗な場所に連れて行ってくれた心のお母さん。全ての思い出が優しく、大切にしているから72歳のお誕生日に花を贈りたかったんだ。そんな気持ちを書いたよ。誰かのハートにそっと届くといいな。