大歓声に包まれて

ヤクルトがセ・リーグ優勝の翌日、睡眠不足の中、それでも息子は約束通りに学校へ行ってくれました。そして、いつものようにお迎えに行くと、へろへろになりながらも頑張ってきた様子。その姿を見て、伝えました。「あのね、7月にコロナの影響で試合が急に中止になったでしょ。その振替のチケット、おばあちゃんがくれたから、明日のナイター観に行く?」「え~!!行く~!」と眠気も吹っ飛んだよう。その試合は、プログラマーのMさんが息子を誘ってくれた阪神戦でした。男子二人が観戦し、私は近くのカフェで待機している予定が、前日に母もチケットを持っていることが分かり、譲ってくれたものでした。そして今回、Mさんにも連絡を入れると、その日は会社の方達と接待観戦だそう。席は違うものの、同じ日に野球観戦に行けることが分かり、なんだか嬉しくなりました。さあ平日の観戦、どうなることやら。

9月27日火曜日、6時間授業が終わったら速攻で帰ってきてね!と伝え、ハイタッチをしていつもの公園でバイバイ。そして4時前、ぜいぜい言いながら息子が帰宅し、猛スピードで宿題を終わらせ、ヤクルトグッズを詰めて、急いで駅に向かいました。時計を見るとすでに4時半過ぎ。6時の試合開始に間に合いますように。その後、表参道の駅に着いた頃にはもう夕暮れ。綺麗な街の中を競歩並みのスピードで歩き、球場近くのファミマに寄ると、長蛇の列で完全に誤算でした。みんな考えることは同じなんだなと仕方なく並んで夕飯を買い、近くのヤクルトショップにもささっと入り、コリラックマいないね~と言いながら神宮を目指すと、ワーッという歓声が。試合が始まってしまったのねと思いつつ、すごいお客さんの波にもまれながら、球場にあるヤクルトグッズのお店に入ると、ドラえもんのマスコットを見つけ二人で歓喜。急いで購入し、ようやく一塁側の席に座ることができました。6時10分、ヤクルトの攻撃にちょうど間に合ったものの、掲示版を見ると阪神に1点が入っていることが分かりびっくり。あれ?もう入ったの?と思いながら、ヤクルトの応援をしていると、Mさんが挨拶に来てくれて息子とハイタッチ、そして阪神の中野選手が先制ホームランを打ったことが判明。あの歓声はホームランだったのかと思っていると、球場の雰囲気が少し変わりました。そう、村上選手の日本人新記録56号のホームランを見る為に、みんなの視線がそこに集まっていて。スマホやカメラを構える沢山の方達、祈りを込めた応援、背番号『55』が光って見えて堪らない時間でした。平日に息子を連れての野球観戦は無理があるだろう、季節の変わり目で私自身体調も良くない日が続いていました。それでも、優勝の感動が心に残り、その後の会見で村上選手が伝えてくれた言葉で行こうと決めました。「まだ終わっていないので、もっとプレッシャーをかけて押しつぶすくらいプレッシャーをかけてもらいたいと思います。」すごい人だな、そのすごさを肌で感じに行きたいと思い観に行くという道だけが残りました。第一打席はフォアボール。何とも言えない表情で一塁に向かう村上選手がいて、少し前の観戦が頭を過って。今年の春、まだ肌寒い神宮で、対戦相手のDeNAから二回もの申告敬遠を受けた村上選手。大好きな選手がバットも振らずに一塁に進むので息子からの質問が色々と待っていました。「敬遠されるということは、すごいバッターの証明でもあるんだよ。」そんな説明をしたことを思い出して。そして、夏休みに観戦した時は、41号のホームランを決めてくれました。秋、三度目の神宮は56号を願い、その一本のバットに沢山の方達の夢を乗せてくれているようで、そんな瞬間をみんなと祈れる場にいられたことに感無量でした。

その後、5回裏の後にはヤクルトから感謝の花火が。まさかまた見られるとは思わず、粋な計らいをしてくれたこの球団のあたたかさと、息子と増えていく思い出の一枚を大切に取っておこうと思いました。野球と花火、とんでもないかけ算だな。それから、阪神が追加点を挙げたものの、ヤクルトの宮本選手がソロホームランを打ってくれて、応援傘を開き東京音頭で大盛り上がり。ラッキーセブンになり、レフト側や3塁側の黄色に染まった阪神ファンの方達の六甲おろしを聴いた時、ナゴヤ球場で聴いた頃のことを思い出し、感動して泣きそうになりました。本拠地にいるのに、阪神ファンの方達の熱気がすごくて驚いた小学時代。中学校に入り、家族4人で甲子園に春のセンバツを観に行き、ここが阪神の本拠地かと嬉しくなりました。1日目はバックネット裏での観戦、2日目はライト側スタンドで応援、その時、ここで阪神ファンの方達は六甲おろしを大合唱しているんだなと思うと、そこに集まるエネルギーを感じ、いいものをもらって帰ってこられたような気がしました。そんな懐かしい記憶が何十年もの時を経て、神宮で思い出され胸がいっぱいに。すると、隣にいた息子がひと言。「あれ?ここってヤクルトの球場だよね?なんか黄色の阪神ファン、多くない?!」同じ感想をどうもありがとうと思いながら笑えてきて。そういえば、ホワイトタイガーちゃん(我が家のぬいぐるみ)もトラだから阪神ファンだと息子が言っていたな。どこにでもいるんだよ、そして熱い!!
その後、Mさんがコリラックマのマスコットを見つけてきてくれて息子にプレゼント。「神だ!」と大喜びし、彼にとって今日の神はMさんだったよう。そして、同じ会社の方からも“つばくろうちっぷす”をプレゼントされ、野球がもたらしてくれる大きな繋がりを感じ嬉しくなりました。試合は、4対1劣勢のまま最終回9回ツーアウト。そこに代打で出てきてくれたのは山田哲人選手で、優勝した瞬間大泣きし、村上選手の胸で泣いた彼の姿を思い出し、感極まりそうになりました。ヤクルトファンの方達から感じる、山田選手、キャプテンとして沢山の重圧の中ありがとうという気持ち。あまりにも優しく温かく、その空間にいられたことが幸せでした。打ち取られ、ゲームセット。村上選手もノーヒットで終わったものの、火曜日なのに驚く程大勢のお客さん達で、スーツの方達も何人もいて、いい試合でした。

時間は9時半過ぎ。慌てて息子と帰らなければと急いで球場を出て、大勢の方達と千駄ヶ谷駅に向かう途中、阪神ファンの男性が引退される糸井選手のユニフォームを着ていて、胸が詰まりました。そして、リュックを背負った一人の男性の背中から見えたのは“DOME”の文字。左側が隠れていたものの、そのユニフォームは間違いなく2年前まで阪神で活躍していた福留選手のものだと分かり、涙腺が崩壊しそうでした。「私、実は中日ファンなんです。福留選手は入団の時からずっと応援していました。勇退する姿格好良かったですね。きっとあなたと同じ気持ちです。」お酒が入っていたら声をかけてしまっていたかもしれないな、横を通り過ぎる時、心の中で彼に届けました。いつか、ナイターの甲子園ライト側に行ってみたいな。星野監督や矢野監督、福留選手の大ファンでした!そう伝えたら、みんなウェルカムで迎えてくれるかもしれない。
帰宅は、11時過ぎ。あまりにも朝辛かったら休んでもいいよと伝えると、明日はロング昼休みがあってみんなと遊ぶから絶対に行く!と言ってくれました。こんな気持ちにさせてくれる学校や、友達、そして息子の姿勢に感謝。ヤクルトのユニフォームを着たドラえもんとコリラックマと一緒にご満悦で眠った彼、負けから教わることも大きいね。
深夜の1時、聴こえてきたのは「ゴーゴースワローズ!!」という球場DJの方の声と、熱気に包まれた六甲おろしの大合唱でした。自分の中に優しく浸透していく。今度、神宮に行く時は何を思うだろう。