楽しみで埋めよう

週明け、息子がぽつりと伝えてきました。「月曜日はプロ野球が無くてつまらないんだよ。」と。本気の野球ファンになったなと笑えてきて。週末の午前中は、大谷選手のいるエンジェルスの試合を自然な形で観るようになり、すっかり野球漬けに。そして、気持ちよく晴れた土曜日、河川敷にある公園でキャッチボールをしてきました。最初は緩くやっていたものの、段々ヒートアップしていき、フライやゴロを投げて3アウトチェンジというルールで大盛り上がり。右へ左へ揺さぶり、一度でもエラーをするとアウトがリセットされるというスパルタぶりに、周りにいたお父さん達も半笑いで見届けてくれて、楽しい時間が流れました。「ゴロを取ってから、速い球を投げればいいってものじゃないの。ファーストへ正確に投げることも重要なんだよ。はい、もう一回。」「え~!」と文句を言いながらも止める様子はなく、段々やけくそになってわざとスライディングキャッチしようとするので、草だらけ。自分のプレーがツボにはまったのか、寝転んで笑い転げるので、こちらもつられてしまい、完全に集中力が切れてしまいました。野球チームは離れても、野球の面白さは体に沁みついてくれていて良かった。青空の下で過ごしたこんな時間を忘れないでいようね。すると、息子がしゃがみ、キャッチャーの構えをしてくれました。その姿を見て、高校の時にエース君とキャッチボールをした時のことが思い出されて。「Sはとにかくコントロールがいい。ちょっと驚いた。なんでだろうな。」「でも、しゃがまれると顔面にぶつけてしまいそうで不安になるんだよ。キャッチボールだと目の高さが近いから安心するの。」「それも慣れだと思う。」何かその会話にヒントがあったのか?それって対人関係にも応用が利くのかなとしゃがんでいる息子とエース君が重なり、そんなことを思いました。そして、投げた球はフルカウントまで行き、最後の一球はストライク!「三振!」と息子が言ってくれた時、両手を挙げてガッツポーズ。10代の自分を少し越えられた気がしました。挑戦すること、忘れたらいけないな。

そのエース君と甲子園を目指した同じチームに、小中学校が一緒だったクラスメイトがいました。中学の卒業式で、テニス部の後輩が彼に第二ボタンがほしいですと告白したものの、断られていたことが分かりました。余計なお世話だと思いつつ、彼にひと言。「テニス部の後輩が、○○の第二ボタンほしがっていたんだよ。こういっちゃなんだけど、テニス部でとても控えめなかわいい子なんだよ。その子が勇気を出して伝えたの。もう○○先輩に会えなくなるからって。」「俺、まだこれから一般入試があるから学ラン着るんだよ。だから、ボタンが無くなったら困る。」頭固いな、私と同じ高校を受験するんだから知ってるよと心の中で思ったものの、彼の世界にこれ以上踏み込んではいけないと思い、それ以上伝えるのはやめました。その後、高校2年の時にまた同じクラスに。そして、なんの話の流れなのか母が教えてくれて。「あなた、○○君と今同じクラスよね。彼のお母さん、ずっと重い病気で入院されているの。小学校の時、他のお母さんから何気なく聞いたことがあってね。お父さんが育児を頑張っているみたい。」思いがけない話を聞き、うな垂れました。彼の気持ちを何も考えずに、第二ボタンの話をしてしまったことの後悔が押し寄せて。ボタンを渡せば、受験の前にボタン付けが発生する。それをお父さんにさせる訳にはいかないと思っていたのではないか。そして、はっとなって。彼はいつもお弁当ではなく、購買で業者さんのお弁当を買っていた。お母さんの手作り弁当を見たことがない、それを思うと色々と胸が痛くなりました。なんにも知らなくてごめんね、でも応援してる。

その後、野球部監督が担任の2年の時、とても自然なタイミングで彼が頭を丸めてきました。少しの恥ずかしさと、落ち着いた意志のようなものを感じて。そして、3年でクラスは離れ、甲子園の予選でどんどん上位に食い込んでいっても、彼はずっと補欠でした。ベンチでいつも声を張り上げ、仲間を鼓舞していて。お母さんにその姿を見てもらえたらな、応援席でそう思いました。それから、敗戦。たった一度も打席に立てなかった彼は、集合写真で笑ってくれていて。いい野球部の時間だった?その写真、お母さんに届くといいね。
その数か月後、受験真っ只中で、みんなが合格する中、彼が浪人を決めたことが分かりました。一人静かにその道を選んだことが分かって。その背中を見た時、この人は結果を出すだろうと漠然と思いました。そして1年後、風の噂で某一流大学に合格したと聞き、堪らない気持ちに。子供の頃から信念を持ってここまで来たんだろうな、野球部で培ったものも大きく、いつも自分を曲げない人でした。岐阜の小学校から愛知の学校に戻り、そこのグラウンドでは少年野球が毎週日曜日に行われていて、彼も所属。中学でも高校でも迷わず野球部に入り、無口に取り組む姿を見てきました。高校受験の時、たまたま一緒に面接をすることになり、同じ学校の男子3人と私の4人で集団面接会場へ。1人の男子が緊張しすぎて、「私は・・・。」と一人称を間違えるので、それで残りの3人が噴き出しそうになり笑いを堪えるのが大変でした。なんとか難を切り抜け、みんなで廊下で大爆笑。その中に彼の姿もあり、一緒に笑い、乗り切れたこと、同じ道をまた3年間歩めたことが今になり、どれをとっても優しい時間だったのだと改めて思いました。大学合格おめでとう、ボタンのこと、うるさく言っちゃってごめんね。野球部のユニフォーム、小学校も中学も高校も似合っていたよ。甲子園予選の敗戦が決まり、みんなのバットを抱えて片付けるあなたを見た。裏側で沢山支えたその姿を覚えておく。彼の世界は楽しさで埋まっているだろうか。全然違う所で、今も変わらず野球に熱狂してくれていたらいい。