ある日曜日、少年野球があるかと思いきや、前日の雨でグラウンドコンディションが悪く、昼過ぎまで自宅で過ごすことになりました。食器を片付けながら、夫と息子の何気ない会話が聞こえてきて。「静岡の動物園に行って、キリンさんに小松菜をあげる時、舌が長くてきゃ~とか言っていた人がいるんだよ。今食器洗ってる人。」と息子。「ママだ。」と夫の返事。ただの悪口じゃないか!と思いながらも笑えてきてしまい、そんなことで息子の憂さ晴らしができるならまあいいかと一緒に和んだ優しい時間でした。
そして、午後から雨が降り出しそうな平日。どんよりとした天候の中で、忘れたことのない出来事がくっきりと思い出されました。大学4年の卒業旅行は、9.11のテロの後もあり、女友達二人とレンタカーを借りて四国一周の旅へ。徳島県出身の友達のご実家を拠点にさせてもらい、そこから左回りで巡ることにしました。香川で美味しい讃岐うどんを食べ、宿に着いた頃一本の電話が。マブダチK君がどうしても話したいことがあるからと、深刻な声で連絡をくれて驚きました。内容を聞いてみると、車の旅をしている中で、北関東で出会った彼女と結婚したいということ。子供が二人いて、みんな愛知に連れて来たい、何かあったら力になってやってほしいということ。実際に、K君が私に会わせたいからと愛知で一緒にご飯を食べたこともあったのですが、とても若く、どうしても違和感があり、ゆっくり時間をかけてからの判断でもいいのではないかと思い、沢山の気持ちが交錯する中で伝えました。「おばさんは知っているの?」「まだ話していない。最初は反対されると思う。」「仕事はどうするの?」「適当に探す。」「お子さん二人は懐いてる?」「全然。正直あまり子供好きじゃないから、まだどう接したらいいのか分かならない。」聞いていたら、怒りや切なさやもっと沢山の気持ちがこみ上げ、大切な友達を失う覚悟で話しました。「K君、あなたが優しいのも分かる。彼女のことが好きなのも。でも、全然現実が見えていないように思えてしまうし、本当に家族を持ちたいって思うなら、もっと真剣に仕事を探すと思うし、子供好きじゃないK君に懐いてもらうには沢山の時間が必要な気がするんだよ。あまりにも急すぎて、旅先で出会ったから一気に火がついてしまったように見えてしまって、心配だし、今はとてもじゃないけど応援はできない。もう少し、一旦立ち止まって一人になって真剣に考えた方がいい。」こんなトーンじゃなかったな。もっとヒートアップしていた。半分突き放すような言い方にK君がショックを受け、最後に捨て台詞。「Sなら応援してくれると思って電話したんだよ。」「K君が幸せになるとは少なくとも今は思えないから言ってる。本当に貫きたいなら、進めばいい。でも私は祝福できない。」そう言って、怒りと悲しみで電話をブチっと切りました。くそっ。これでマブダチを失ったかもしれないな。でも、優しい言葉を投げかけるような場面じゃないんだよ、冷静になって目を覚ましてよ。色んな気持ちを抱え、なんだか悔しくてどんなに綺麗な景色を見ても泣きそうでした。
卒業旅行から帰り、少し時間が経ったある日、K君からまた電話が。「お前に電話切られて、お前だけはどんな状況でも俺の選択を応援してくれると思っていたから、すごく辛かったんだよ。でも本当に落ち着いて考えたら、やっぱり知らない土地で出会って、舞い上がっていたところもあったんだと思う。Sの言うとおりだった。」まだ失恋の傷が癒えていない段階で、話してくれた彼の声に元気がなく、それでも心配をかけた私にできるだけ早く伝えなければという思いが伝わり、一緒に沈みました。好きで怒ったんじゃないから、どうしようもなく辛くて、分かってくれたはいいけど、それでも辛くて、思い出すだけで今でも胸が痛い出来事です。いつか、丸亀製麺の讃岐うどんでもご馳走してもらって、初めて私の痛みが取れるのかも。それ以上に、アイツに助けられてきたこと、忘れてはいけないな。
そして、関東に来て渡されたバトン、プログラマーのMさん。まだ友達として接していた時、彼もまた抱えられない程の事で悩んでいました。人が良すぎて、押し潰されそうで、その姿を何度も目の当たりにして、ついに私の怒りが爆発しました。優しく言っているだけでは、優しく受け取られるだけ。本気で痛いと感じられる所まで怒らないと、もう何も響かないぐらいの所にいるような気がして、全エネルギーを投入しました。怒りに任せて、ありとあらゆる角度から伝えてしまったので、受け取る側は相当きつかったはず。6歳も上の彼に失礼を承知で、でも、今私が本気でぶつからないと、Mさんはずっと苦しむのが分かっていたので、もう二度と連絡がないかもしれないなと思いながらも、メッセージ上で伝えました。そして、一旦音信不通。どうか、どうかこの気持ちが届きますように、そんな願いを込めて。それでも言い過ぎていることも分かっていたので、自己嫌悪に陥りながら。
一晩経ち、どうかなと思い、そっとメッセージ画面を開けてみると、そこには十分すぎるぐらい受け取ってくれた彼のメッセージがありました。「頭をガツンと殴られたような衝撃だった。人のことを思い、自分に痛みを持っても伝えてくれる。そんな人に会えることはありません。ありがとう。本気で変わろうと思います。もっと自分を大切にできるように。」その内容を読み、泣きたくなりました。というか泣いていた。言いたくないことを沢山言って、傷つけた自覚もあって、でもそれぐらいの怒りをぶつけないと分からないんだよ、ずっと人の為に生きてきたんだから。急所を突かないともう届かない。それが分かっていたので、少しでも外れたらそれっきりだろうなと思って投げた球でした。それが、何の狂いもなくまっ直ぐに返ってきて、どれだけ嬉しかったことか。それから、Mさんは劇的にパワーアップ。目も、醸し出す雰囲気も、あの頃とは全く違う自信を持った敏腕プログラマー、優しさは深みを増し、いい感じです。
このサイトを立ち上げる前、このように一波乱あり、本気でぶつかり合い、太い絆ができた後に、声がかかりました。どんな思いを抱えて、届けてくれた気持ちだっただろうと思います。「一度壊れた心は、簡単には修復できないんだよ。お願いだからもっと自分を大切にして。」書いていても、その当時のことが蘇り胸が詰まります。そんなMさんが、心を込めて作ってくれた土台があり、その上で言葉を紡げる喜びを、毎日感じる優しいひととき。
そんな、沢山の愛に読んでくださる皆さんが包まれてくれたら、たった一粒でも、温かい粒子が降り注げばいいなと願って今日もここにいます。愛があればこそ。きっとまだ自分も完全に乗り越えた訳じゃないから届けられる気持ちもあるなら、そんな自分も好きでいることにする。
K君もMさんも、どうしようもなく辛くなって、八つ当たりのような負の感情を出す私を見てほっとしてくれる。包容力は半端ない。助けられたのは、こちらの方。