自由を求めて

毎日息子と弾ける中で、ふと私の目を見つめ伝えてきました。「ママって、ラッコに似ているよね。」・・・は?と思ったものの、これまで色々な人に小動物っぽいと言われてきたので、ある意味その部類に入るのか?!とおかしな納得をしてしまいました。そういえば、ラッコは海に流されてしまわないように、寝る時はワカメを体にぐるぐる巻きにしていたな。私も周りに流されてしまいそうになったら、想像上だけでもワカメを巻いてみようか。本来の自分を取り戻し、貝を割ることに専念できるかもしれない。「ママの大事な物って石でしょ。ラッコだから脇の下に隠しているんじゃない?」とこの話を引っ張るので、伝えました。「石よりも、Rが一番大切。それは、この先何があっても変わらない。」そう言ってハグをすると、満面の笑みではにかんでくれた息子。あなたを守るためならどんなことだって頑張れる。

そんな会話の二日前、離婚調停の為に、横浜家庭裁判所に行ってきました。相手があることだし、内容はできるだけ伏せますが、不動産関係のお仕事をされていたHさんに言われた言葉を思い出し、少しだけ触れることにしました。以前、別居をした後に彼が伝えてくれて。「○○さん、離婚カウンセラーさんに向いていると思いますよ。聞き上手だし、何より今の経験が活かされるんじゃないかなって。苦しい胸の内を分かってもらえることって本当に救われますよ。」と。彼らしい視点になんだか助けられ、今感じているものを話せる範囲で伝えることで、もしかしたら誰かの心をほんの少しでも軽くできるかもしれないと願い、届けようと思います。
当日、横浜スタジアムの横を歩き、野球の力が自分の中に入ってくるようにと祈って、空を見上げました。夏の雲が綺麗に広がり、深呼吸をひとつして裁判所の中へ。気合いを入れてスーツで行ったものの、待ち合わせ場所に登場した弁護士の先生がビジネスカジュアルで、なんだかふっと力が抜け、笑顔でご挨拶。「先生、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。」「本当に久しぶりですね。いつ以来?」と会話までフランクで、二度目とは思えない気楽さにぬくもりも感じました。その後、調停委員の方達と夫と交互に何度か話をしたものの、まとまらなかったので、次回へ持ち越しに。隣にいた先生が、全力で私を守ろうとし、言葉だけじゃない包容力を感じ、胸がいっぱいでした。待合室で気持ちを届けてくれて。「Sさんがここで譲歩してしまったら、私を雇った意味が無くなります。」あなたは自分の為ではなく、お子さんの為に戦っているんですよね、だからどうか負けないで。そんな想いが驚くほど届き、結果はどうであれ、一緒に戦ってくれた先生のこの気持ちをずっと忘れないでいようと思いました。心が溢れるってこういうことなんだろうなと。そんな先生は、やはりどこかでネネちゃんに似ていて、随分前に言われたことを思い出しました。「お母さんのコップには穴が空いているの。Sがどれだけ頑張って注いでも、一時的には満たされるかもしれないけど、すぐに空っぽになって、その度にSが疲弊する。Sじゃだめなんだよ。妹がどんどん追い詰められていくの、私は見ていられない。これまで本当によくやったよ。逃げてもいいんだよ。それを非難する人がいたら、言わせておけばいい。妹がこれまでどれだけの思いをしてきたか、あんた達知ってるの?って私が言ってやる。本当の辛さは、誰にも分からないよ。」その時のことが頭を過り、今回もまた、私じゃだめなんだと冷静に思えた時、姉の深い愛を改めて感じました。ネネちゃんは、妹を守るための刃を持っていた、その使い方を少し間違えると、自分に向けてしまっていたんだなと。辛いことを随分させてしまったな。

先生にお礼を言い、裁判所を出ました。長時間パンプスを履いていたので、足が痛くなってしまったものの、中華街を歩いていたら、懐かしい思い出が駆け巡りました。カナダの留学から帰国した姉は、名古屋の外資系に就職。その後、横浜に出張があるからと泊まっていたホテルに呼んでくれて、夜行バスで初めての横浜へ。大学4年、卒業式間近でした。早朝に横浜駅に着き、姉のホテルに転がり込み、出勤するネネちゃんを見送り、仮眠を取ってから山下公園へ。ガイドブック片手にみなとみらいエリアを散策し、ホテルに戻ると中華街に行こうと電話をくれて、まさかの二回目中華街へ。昼と夜の雰囲気が変わり、何より隣に姉がいてくれて、本当に嬉しかった。汗だくになって中華街を歩いていたら、隣に大学4年の私と姉が一緒に歩いていく姿が見えたようで、泣きそうになりました。どうしようもない親だけど、私達、それなりに頑張ったよね。そう言って中華料理を食べて盛り上がった夜。姉の努力を妹が応援し、妹の苦労を姉が包んでくれた。その日着ていったスーツは、ネネちゃんが以前くれたものでした。肌を通し、彼女の想いが体中に広がり、みなとみらいの観覧車が見えた時、また頑張ろうと思いました。カチカチカチ、手をつなぎ幼かった姉妹、ここまで来たんだ。そして、きっとまたここから始まる。

「ママ、今年の夏休みが一番楽しい!」「どうして?」「好き勝手できるから。朝ものんびり起きてこれるし、いろんなお楽しみもあって、自分の誕生日の次に好き!」「やりたい放題だよね~。それはね、宿題を早くに頑張ったからだよ。いつもご褒美があったら価値が無くなってしまうかもしれない、でも頑張った先に待っていてくれたら、とことん楽しもうよ。お母さん、Rと過ごす時間、とっても好きよ。」そう言うと、ビッグスマイルを見せてくれました。空を飛ぶ日まであと少し。スーツケースの準備しなきゃ。ネネちゃんが働いていた航空会社の飛行機で飛ぶよ。海も空も、きっと輝いて見える。