小さな時間

息子が母からもらった砂時計を大事にしていて、歯磨きをする時に気まぐれで活躍中。この間は、私が洗面所にいた時にひょこひょこっとやってきて、歯ブラシをくわえ、真面目に砂時計をひっくり返したかと思ったら、1分後にはすたすたと去っていきました。「あれ?3分経ってないよ。」「大丈夫。ひっくり返すと綺麗でしょ。」なんだそれ!癒しの為にひっくり返しただけ?!「綺麗だけど、3分磨こうよ。」「いいのいいの。」何がいいんだか。今の所、虫歯がないのでこちらもこれ以上文句は言えず。ひっくり返すことに意義があるなら、そんな息子の歯磨き習慣を見届けることにしよう。

翌日は、半日の授業だったので図書館へ出向きました。のんびりとパソコンを開いても、気分の悪さで集中ができず、帰宅時間も気になったので早々に切り上げ、ソファ席へ。すると、共用で使うローテーブルを挟んだ隣のご年配の男性が、そこに置かれていたタンブラーや本をわざわざどかしてくださり、「どうぞ、使ってください。」と言われ大慌て。「ありがとうございます。はんぶんこしましょ!」とこちらが笑って言うと、微笑みながら、「じゃあ、タンブラーだけ。」と言って和やかな時間が流れました。そこの周りにいた男子学生さんらしき方達もふふっとしてくれて。こんな一回のキャッチボールで場が和んでくれたら嬉しいね。その後、ぼーっと大きな窓から空を見ていました。すると、飛行機が通過し、あっさり見えなくなったと思ったらまた一機が。空が見える図書館、好きだな。
大変!8歳児が帰ってくる!とバタバタ帰宅。ぎりぎり間に合い、なんでもない日常に戻り、夕飯を一緒に食べた後、猛烈な気持ちの悪さに襲われソファでノックダウン。「ごめんね。お母さんちょっと調子悪いの。」「なんで?」なんでだろう~なんでだろう?と赤と青のジャージがちらついてしまったのですが、ここは真面目に答えることにして。「多分、今飲んでいる薬の影響だと思うんだ。」「分かった。ママ寝ていていいよ。ボク、宿題やってるから。」助かるよ~と言いながらも、思考は止まらず、なんでシュウマイの上にはグリーンピースが乗っかっているんだろうと、これまたどうでもいいことがぐるぐる。そして、4ケタの筆算プリントができたと持ってきてくれたので、確認しようとしても頭が回らず。「いいよ、先生に見てもらうから。」とあっさり言ってくれて、救われたようでした。全く分からないと半べそをかいていた1年生の息子はどこへやら。逞しくなったね、とっても。

この間は、祖父の命日。ひ孫に会わせることができたのは、たったの一回でした。その一回があまりにも尊くて。ようやく帰省できた産後3か月目、病院へ行くと、すっかりやせ細った祖父がベッドに横たわっていました。「おじいちゃん、Rを連れてきたよ。ひ孫だよ。」そう言うと、あんなに力強かった祖父が、小声で「そうか。」と呟いてくれて。あの重なった時間を忘れることはありません。命が繋がっていく、その重さを目の当たりにしました。葬儀の日、火葬場で祖父の遺骨を前に、担当の男性が遺族みんなの前で伝えてくれて。「87歳のというご年齢で、こちらが驚くほど骨が太く、正直砕くのが大変でした。体が細いわりに、骨がしっかりしていたんです。」祖父が生きた証。そりゃそうだよ、極寒のシベリアの地で生き抜いたんだから。細い体で、重たい道具を持ち鉄道を作り、戦後無傷で帰ってきた人だから。何度手術をしても、這い上がってくる、その生命力に何度驚かされたことか。「おじいちゃん、また会おうね。元気でいてね。」握手し、ハグをした細い体の温もりを思い出し、こんな太い骨だったのねと思うと、涙が溢れ堪りませんでした。

「Sちゃん、本ってな、色んなことが書いてあって、おじいちゃんが戦地に行っていた頃、他ではどんなことがあったのか知ることができたんだよ。映像もあったりして、記録ってすごいな。図書館に行くと嬉しくなるよ。」そう、祖父もまた大切にしていた場所。年齢関係なく入りやすく、好きなだけいて、好きなだけ本を楽しめる空間。「おじいちゃん、私図書館司書の資格を取る為に、もう一度短期間だけ大学に行くことにしたの。」「そうか、まだ若い。おじいちゃんの頃とは時代が違うから、学びたいことがあるなら頑張ればいい。」そう言って応援してくれました。「おじいちゃん、今日図書館に行って、図書館の勉強をしてくる!」そう伝えると、だったら借りていた本を返してくれないかと頼まれたことが、何度あったことか。「戦争の本を探していると、その周りにも関連の本が沢山あって嬉しくなっちゃうんだよ。あれってなんでだ?」「図書館の分類方法でね、関連書籍を分かりやすく並べる為に、図書館ならではの配列になっているの。」「なるほどな。図書館の人、親切でわざわざ一緒に本棚まで探してくれたりするんだよ。」その親切な人に私もなるよ、そう心に誓った祖父との何気ない会話でした。小さな明かりが心の中に灯った瞬間、自分の思い描く未来が見えた時。祖父は、別の世界でまた本を楽しんでいるのだろうか。