灯った火

今年のGWは、どうしようかと考えていたある日、息子の誕生日にスワローズクルーの誕生月の方へ、塩見選手がお祝いのメッセージを送ってくれたことを思い出しました。そうだ、日程が合えば神宮へ行こう!と思い調べてみると、キッズプロジェクトの日で、5月5日も試合があることが分かりました。2年前のこどもの日、別居後初めて迎える二人だけの連休、動物園に行くとお父さん人口が多く、逆に息子を悲しい気持ちにさせてしまったのではないかと密かに気にしていました。その後、広島カープファンである女の担任の先生との面談で励まされた日。お母さんの気持ち、R君に伝わっていますよ、だから大丈夫です。その笑顔が自分の心に浸透していきました。それから2年、息子と歩んできた道がある、その途中で沢山元気をもらったライトスタンドへまた行こうと決めました。予約できる日になると、待ってましたと喜んでチケット予約完了。いいこどもの日になるといいね!絶対にそうしよう。

すると、スワローズクルーの会員に向けて、同じ日に秩父宮で行われるリーグワンの観戦チケットの応募メールが届きました。よく見ると、自分がファンクラブに入っているチームで歓喜!もし当たったらスポーツ観戦のダブルヘッダーをしようと息子を誘うと、喜んで乗ってくれました。が、落選。まあ、そんなにうまいこといく訳ないよね~と思っていると、彼の寒暖差アレルギーが強く出てしまい、ヤクルト戦さえも雲行きが怪しくなってきました。天気予報を見ると晴れ、熱もないし、症状が日に日に軽くなっていったので伝えることに。「ラグビーの試合は、抽選で外れちゃったの。Rの体調も心配だからヤクルト戦だけ観に行こうよ。」「え~!ちょっとラグビーの試合も観たい!」まだそこまで関心がないかと思いきや行く気満々だった様子。長時間外にいてまた悪化させるわけにはいかないと思い、あれこれ考えて伝えました。「ラグビーも好きになってくれてありがとう。ただ、連休でとても混んでいるからRが現地で崩れてしまってもいけないし、後半だけ観ることにしよう。で、行きだけ特急に乗って行くよ。」そう話すと大喜び。そして当日の朝を迎えました。午前中は、ドジャース戦を観ながら準備をしていると、大谷選手の8号ホームランが飛び出し、二人で大騒ぎ。朝から嬉しい忙しさだなと思いながら家を出ました。そして、電車に乗って最寄り駅に着き、神宮球場が近くなると中日のユニフォームを着たファンの方を見かけ、ぐっときました。そう、その日はヤクルト対中日戦でした。どちらも私にとっては特別な球団。ついにこの日が来たのね。そう思いながら、まずは秩父宮に到着。前半の試合の歓声が、わーっと聞こえてきて胸が高鳴りました。ファンクラブのブースに立ち寄り、カードをピッとやってもらうと二回目の観戦ということで思いがけず大きなプレゼントをもらい、嬉しい悲鳴。そして、息子は射的ゲームでまた当て、おもちゃをゲット。私はチームのトートバッグを買い、当日券を購入して、観客席に入りました。すると、ものすごい熱気と観客の数で鳥肌が立って。その日は、リコーブラックラムズ東京対トヨタヴェルブリッツ戦で、ずっと応援しているラムズの最終戦でした。私は黒のユニを着て、息子はチームのタオルを巻き、自由席に座ると、接戦でナンバーエイトの選手がトライを決めてくれて泣きそうになって。「ネイサン!!」自分も寒暖差アレルギーでやられていたことを忘れるぐらい叫び、隣で息子も感動していることが伝わってきました。その後も、両チームのトライは続き、トヨタの勝利でノーサイド。会場全体が拍手に包まれ、とてもいい時間が流れました。選手達が並んでお辞儀するその瞬間を息子がとても大切にしていたことが分かったものの、やること盛り沢山だったので、まだいたいという彼を説得し、ファミマに寄っていざ神宮球場へ。すると、すでにすごい人で、ベビーつば九郎のぬいぐるみをゲットし、クルーの窓口へ行きました。キッズ特典のピンバッチを、息子が箱に手を入れガサゴソ。ひとつを受け取り、お姉さんにお礼を言って見てみると、背番号『9』の選手が。二人で誰だっけ?と思考を巡らせていると、その背番号を付けているファンの方が見えて、名前を見ると塩見選手だと分かり、二人で大歓喜!息子の引きが強くて笑ってしまいました。塩見選手、動画をありがとう。こっそり心の中で届け、ライトスタンドへ。階段を上って広がる野球場の景色、何度来ても堪らない瞬間なんだよな。そう思いながら、わいわい席に荷物を置き、早速ヤクルトユニに着替えました。息子は村上選手の『55』、私は去年のクルーユニ『2896』を身に着け、ヤクルトキャップを被り準備は万端。クルーのカードをピッとやりに行き、プレイボール!ドラゴンズのブルー、いろんな気持ちが駆け巡り、胸が詰まりました。息子の初観戦は、母と観に行った東京ドームでのヤクルト対巨人戦。まだコロナ禍で人数制限があり、3塁側に座っても、ガラガラでなんだか寂しかったよう。その時のことを思うと、本拠地である神宮で、周りはみんなヤクルトファンというライトスタンドの完全ホームという雰囲気が息子は嬉しいのだそう。攻撃になると、張り切って毎回立ち、共に戦う仲間と本気で応援していました。試合は、中日が6対0でリードし、最終回へ。どうかこのまま終わりませんようにと願っていると、最後に3点が入り持ってきた傘を開いて盛り上がり、6対3でゲームセット。負けてはしまったけど、チャンステーマが流れ、何が起きるか分からない試合展開に楽しませてもらいました。でも、息子は本気でがっかりしていて。それもまた面白い。慰めながらゆっくり駅に着き、また特急で帰ろうかと思ったものの、時間が合わなかったので仕方がなく急行に乗ることに。混んでいる中でなんとか席に座れて、また乗り換えでやれやれだと思っていると、60代ぐらいのドラゴンズユニを着たおじさんが隣に座ってきました。相手に分からないぐらいの軽い会釈をすると、ヤクルトユニを着ていた私達親子に気づき、とても柔らかい笑顔で「おつかれさま。」と伝えてくれてじーんとして。「ナイスゲームでしたね!」そう返事をすると、「いやあ、面白かったな~。」としみじみ答えてくれて、優しいひとときでした。試合には勝敗がある、でも結果だけでなく、同じ空間で大好きなチームを応援し合えたこと、その同志としてのおつかれさまなのだろうと。実は私、子供の頃から中日ファンだったんです、父の影響でドラゴンズ戦はいつもBGMのように流れていました。息子はヤクルトファン、だからいつも一緒に応援していて、でもこうして中日ファンの方とお話ができて良かったです。心の中でそっと届けました。すると、応援で疲れたのか気持ち良さそうに眠りについていて、さりげなく隣を伺うと青のリストバンドも付けていて。もう何十年もドラゴンズを応援していることが滲み出ていました。こちらが最寄り駅に着き、起こしてもいけないと思いながら、振り向き様にもう一度会釈をすると、それが伝わったのか慌てて起きてなぜか一緒に降りてくれて。「あれ、同じ駅だったんですか?」「え?ここどこ?!」となんだか寝ぼけている様子。こちらが駅名を伝えると、どうやら乗り換えの駅だったことが分かりました。「気を付けて帰ってくださいね!」「おう!にいちゃん、またな。」ヤクルトユニを着た息子もまた同志、チームは違ってもプロ野球ファンであることは同じ。だから“またな”なんだろうなと、この言葉の深さに、いつか息子は気づいてくれたらいいなとそんなことを思いました。なんて、穏やかな夜。

深夜に帰宅し、すっかり満喫した二人は爆睡して翌日を迎えることに。「スポーツのダブルヘッダー、やれるものだね~。」と私。「ボクね、夢を見たの!ラグビーと野球が混ざった試合に出たんだ!」「え~、どんなの?!」「ヒットを打ってホームに戻ってくる時、トライを決めたの!!」それはそれは斬新!こどもの日に見た、感じた全てのこと、その火をどうか灯し続けて。