諦めない姿勢

定期的に行っている主治医の病院へは、気持ちのいいドライブと共に。音楽を流し、話したいことを頭の中でまとめ、少しの勇気を持ってドアを開けました。
すると、いつもと1mmもずれない穏和な先生がそこにいて、「皮膚の薬効いた?」と第一声が。なんでしたっけ?とこちらがきょとんとしていると、前回少しだけ薬を変えたよねと言われ、思い出しました。お気に入りのスリムジーンズを息子の幼稚園時代から履いていたら、すっかりふくらはぎが黒ずんでしまい、ダメ元で先生に泣きつくと、ブレンドをした塗り薬まで出してもらったことがありました。それがあまり効果なかったので、「先生、もう諦めた方がいいかもしれないです。時間が経ったので難しいのかなと思って。」と言うと、穏やかに伝えてくれました。「え?もう諦めちゃうの?まだやれることはあるでしょう。今日はビタミン剤も追加するから。」と言われ、患者さんよりも諦めない先生の姿勢に感激してしまい、一体どれだけの方達がそんな先生の励ましに助けられてきたのだろうと思いました。

そして今回、ちょっと聞いてもらいたいことがあり、診察の最後に伝えることに。「先生、HSP(人一倍繊細な人)ってご存知ですか?心理学用語の一つだと思うのですが。」すると、あまり知らないようだったので、こちらで簡単に説明をさせてもらうと、いかにも先生らしい解釈で伝えてくれました。「それって、前向きに捉えるとハイセンスってことだよね。色々なことを敏感にキャッチできるっていいことじゃない?」と。すごい誉め言葉だなと思いつつ、自分の胸の内を素直に聞いてもらいました。「ただ、母が混乱している時に一気に攻められると、受け取ってしまいやすい分ダメージも大きいのかなと思うんです。前よりは母の状態も大分落ち着いてはいるんですけど。」そう話すと、私の目を見て一瞬止まり、そして微笑んでくれました。「自分で自分のことを分析できるようになって、前よりも強くなったね。冷静に自分を見ようとしている。ただね、お母さんの問題で、あなたが自分を責めることはないんだよ。今はよくなってもまた分からない。それは伝えさせてもらうけど、沢山辛いことを経験して、やられてばかりじゃないのだと、それだけ落ち着いて捉えられていたら大丈夫な気もするよ。」一番苦しかった時期を知ってくれている主治医の言葉には、温もりや優しさがあり、安心させてくれる強さも、笑い飛ばしてくれる受け皿もあって、堪らない気持ちになりました。振り回されなくなってきたね、それでいいんだよ、だってあなたの命でしょ。そう言われているようでした。こんな風に人を守れたら、こんな風に誰かも泣いていた心に笑顔が沁み込んでくれるのかな、そうだといいな、そんなことを思った安らぎに満ちた時間でした。

大学図書館にいた頃、急に襲われる頭痛や気持ちの悪さに困惑しながらも、なんとかこなしていたある日。あまりにも私の顔色が悪いので、女性の上司が気づき、声をかけてくれました。「今日は天気も悪いし、気分が悪い時は無理しなくてもいいのよ。保健室に行くと、他の職員に気づかれるし、早退すると電車に揺られるのもきついかもしれないから、応接セットで休んで。ドアを閉めるから大丈夫よ。私の友達にもね、雨の日になると頭痛が酷くなる人がいて、あなたの辛さ分かるから。」そう言って、そっと促してくれました。お礼を言い、ドアがパタンと締められ、長椅子に横になると、胸がいっぱいになって。眠れないんだけど、張り詰めていた気持ちが少しずつ和らいでいくようで、良くなったらどうやってもらった気持ちを返そうか、そんなことを思っていたような気がします。30分程経ち、髪の毛を整えて出ようとすると、他の部署の職員がやってきていて、私が自席にもカウンターにもいないので、あれ?と思われていたらしく、女性の上司が適当にごまかしてくれている会話が聞こえ、図書館で働く人達に守られているのだという実感に泣きそうでした。他の職員も大学の仲間、でも図書館の仲間はもっと深い仲間、そんな女性の上司の優しさを教わった気がしました。
他の職員の方が去り、事務室に戻りお礼を言うと、にっこりしてくれて。「もっと寝ていれば良かったのに。今日は図書館も結構暇だから。」そう言って笑ってくれました。その上司は、ご家族の都合で一生独身。「もし私が結婚していて、娘がいたらきっとあなたぐらいね。なんかね、色々世話を焼きたくなるの。だから、甘えられる人には甘えなさいね。」そんな温かい人生の先輩に、退職後、沢山のお礼の気持ちを込めて贈った淡いピンクのスカーフ。とっても喜んでくれて、なんだかまた一人お母さんができたようでした。

そんな上司が毎年送ってくれる年賀状には、『いつかまたお茶でもしましょう』。私とのデートを楽しみにしてくれている心の母に会いに行かないと。雨の日頭痛の弱音でも聞いてもらおうか。あなたのひと言ひと言にどれだけ助けられたか分からないと、その気持ちを笑顔と一緒に届けに行こう。