旅の栞を胸に

息子の調子もすっかり良くなり、野外活動に行けなかった辛さを早めに上書きした方がいいと思い、日帰り旅行のプランを立てました。本当はみんなで行く予定だった富士山、現地に行くことはできなくても遠くから見ることができたなら。それを思った時、頭の中にあった地図が一か所を光らせてくれました。そうだ、三島へ行こう。その後、教室でもらっていた栞の中身を思い出し、スタンプラリーをやれなかったことも息子の中で残念だったのだと気づき、自前のスタンプラリーを作成。気に入ってくれるといいなと思い、学校から帰ってきた息子に伝えました。「今週の土曜日ね、天気予報は曇りになっていたから、雨じゃなさそうだし、お母さんと静岡に行かない?三島駅まで行って、すぐ近くに大きな公園があるの。そこには富士山の湧き水や溶岩があってね。富士山は雲に隠れて見えないかもしれないけど、富士山のエネルギーを見に行こうよ。これ、スタンプラリーを作ったの。全部達成できたら、一匹のぬいぐるみを現地でゲットしよう!」そう話すと、喜んでくれました。何かを掴む一日になるといいね。

そして当日の朝、荷物を確認し、電車に乗りました。二人旅だから無理のないスケジュールにしようと思い、ゆったり目に出たのは正解。お互いがしっかり睡眠を取り、いいコンディションで遠出できることはとても大切なこと、そう思っていると小田原駅に到着しました。スタンプラリーミッション1は小田原の提灯を見つけること。構内を歩いていると、息子が「あ!」と大きな声を出し、あっさり見つけました。「小田原は提灯が有名なの。大きいのが駅にあるからすぐに見つかると思ったけど早かったね~。」「ボク、秒で見つかった!」とわいわい。少しだけおみやげ屋さんに入った後、乗り換える為に次の電車を待ちました。すると格好いい電車がやってきて、「これに乗るの?」と息子が驚いてくれて。旅感を出すには特急電車がいいだろうと思い、予め席の予約をしていたのは『踊り子』でした。その電車は、まだ父が名古屋にいた時、母と姉の子供と私と息子が二人の還暦祝いを伊東の旅館にしようと決め、熱海で乗り換えた時にたまたま目撃した電車でした。いつかこれに乗ってみたいな、漠然と思っていたその電車に大きくなった息子と乗れることで、胸が高鳴りました。「いろんな辛いことを乗り越えたから、今日はご褒美。頑張った先にはいいことが待っていたりするよ。お母さんね、Rと『踊り子』に乗りたかったの。」そう話すと、本気で喜び、席のテーブルで嬉しそうにスタンプラリーのシールを貼ってくれました。窓から見えてきたのは熱海の海。なんだか胸がいっぱいでした。そして、三島駅に到着。「静岡でもスタバに行ってね!」「ありがとう!1か所行けたら十分だよ。調べたら三島駅にあったの。」「小田原駅でも行こうよ。Mさんにスタンプの数、負けちゃってもいいの?!」と若干圧強めに言ってくるので笑ってしまいました。以前、Mさんのスタンプを見せてもらうと地元の兵庫や大阪のスタンプを沢山持っていて、「ああ、負けた~。」と私が冗談で言ったことを息子は覚えていたよう。別に競い合っていないんだけどなと思いつつ、一緒に楽しんでくれているので、見つけたら付き合ってもらうことにしました。それはね、ママ、この旅をありがとうの気持ちも入っていることは分かっていて。思い出のスタンプ、もらいに行こう。そう思っていると、三島駅に到着し、あっさりスタバを見つけ、いつものようにポテトチップスを購入。その後、スタンプラリーのめあてに書いていた、マグロをいっぱい食べる!!という目的を達成する為、美味しそうなお寿司屋さんへ。マグロ丼やお寿司を注文すると、板前さんが握ってくれた料理が並び、店員さんに写真を撮ってもらいました。永遠の一枚、なんだかそう思いました。そして、お腹が満たされ、三島駅近くにある楽寿園へ。ミッション2は動物を10匹見ること、本当にかわいい小動物が沢山いて、あっさりクリア。それからも、かき氷を食べ、園内を散策すると、思っていたよりも広くて、職員の方にどこに溶岩や湧き水があるかを聞いてみることに。すると、すでに通ってきたことが判明したので息子に伝えました。「ミッション3の溶岩を見ることと、ミッション4の湧き水を見ることなんだけど、途中の小浜池がそうだったみたいでどちらもクリアしていた!他にも歩く中で沢山溶岩を見てきたみたい。」「やった~!全部クリアだ!」そう言って、わざわざ細い橋を通りながら、元の場所へ戻ってきました。そこで流れていた綺麗な湧き水を触ると、めちゃくちゃ冷たくて富士山パワーをもらえたねと二人で歓喜。豆汽車に乗り、ホッケーのゲームを楽しみ、最後にタリーズでお茶をして帰ることに。楽しかったね~と言いながらスムージーを飲む息子の笑顔を見て、上書きしてくれたのだと思いました。富士山はみんなと行けなかったけど、あなたにパワーをくれたよ。社会見学、楽しかったね。そんな気持ちでいると、帰りの特急の時間が迫っていて大慌て。急いで片付けお店を出ようとすると、二人で同時にタリーズのくまちゃんを発見。何か不思議な模様だなと思っていると、それは富士山と海をイメージしたものだと分かり、息子が欲しそうにしていたので、スタンプラリーの記念グッズに決めました。手に取り、歓喜し、最後にテイクアウトをしようと思っていた三島コロッケを買いに行くことに。すると、すでに売り切れで、またいつか食べられるといいねと言いながら改札の中へ。それでも、まだ諦めがつかず、反対側の出口にあるかもしれないと小走りに移動。お店があり、コロッケはなかったものの、静岡限定の桜えびの柿の種を見つけ、時間がなかったので慌てて一袋だけ購入。ダッシュで戻る途中で急に昔の記憶が映像で流れ出しました。そこは、妊娠6か月目頃の三島駅でした。悪阻が酷く、里帰り出産を諦め、それでも母が元気な赤ちゃんを産めるようにと願い、美味しいあわびを食べさせたいからと様子を見に来てくれました。食欲はなかったものの、体は動けるようになっていたので、元夫と母と私の三人で静岡の美味しい魚介類のお店へ。あわびを一切れだけ食べ、母の気持ちが嬉しく、本当にもうそれだけで十分でした。そして、名古屋へ帰る母を三島駅まで見送ることに。車を降り、母と二人だけに。「お母さん、来てくれてありがとう。」「S、もう一人の体じゃないのよ。体に気を付けてね。」そう言って涙ぐんだ母は、紛れもない子を思う純粋な母親でした。母の愛を芯で捉えていた、その瞬間が三島駅に残っていました。あの時お腹にいた息子はもう10歳、お母さんが届けてくれた愛、孫にもきっと届いていたよ。「ママ、間に合った!」そう言ってゼイゼイしている彼を見て、優しい現実が戻ってきました。もう一度『踊り子』に乗り、小田原駅へ。行きに見つけた小さいシマエナガのぬいぐるみを自分のお小遣いでゲットし、ご満悦の息子。そして、新幹線側の出口まで行くとお店があり、中に入ると天むす味のかっぱえびせんがあり、泣きそうになりました。それは名古屋駅で息子と1年半前に見つけた商品、故郷と新幹線で繋がっているんだよね、そう思うと嬉しくなって購入。その後もスタバでバウムクーヘンを買い、スタンプが二個になって嬉しい旅でした。

電車に乗り、最寄り駅に着くと、サッカーヴィッセル神戸のユニフォームを着たサポーターの方を見かけ、息子に報告。すると、「ボクはラグビー日本代表の桜のジャージーを着ている人を見た!」と教えてくれて。「そう言えば、お母さんね、三島駅でオリックスのユニフォームを着ている女性も見かけたの。」「え~!そうだ!行きの小田原駅でDeNAのユニフォーム着ている男の人いたよね!」「あ~!いたいた!いろんなスポーツファンの方に会えて嬉しかったね。Rもそうやって、あの子ヤクルトファンだ!ってユニフォームを着ている時は思われているんだよ。」「ああ、そうか!」と照れ笑い。どうだった、日帰り旅行は。一日で沢山詰め込んだね。「ボクのお腹の中にまだマグロがいるよ!楽しかったね、ママ。特急電車に乗れると思わなかったから、嬉しかった!」そう言って、旅の仲間達と眠った夜。大人になった時、彼はどんな場面を思い出してくれるだろう。静岡に出張があった時、三島コロッケを買って来てくれたら面白い。