なんとなく息子に好きな色を聞いてみたくなって尋ねてみると、嬉しい言葉が返ってきました。「ボクね、水色!」「どうして?」「だってね、海が好きだから。」青じゃなくて水色、何かそこに子供ならではの純粋な気持ちが含まれているようで嬉しくなりました。そして、私の好きな海。彼の心の中がどこかで自分とリンクしているのは気のせいだろうか。そんなことを思っていると、ママは?と聞いてくれました。「お母さんはね、白。何色にも染まっていない白が好き。だから雲を見ると嬉しくなるよ。」「だったらママは、曇りの日が好きなの?」「ううん、真っ青な空の中にあるモコモコとした入道雲が好き。綿菓子みたいだし、柔らかそうでいいでしょ。」「そうだね〜、ボクは飛行機雲が好き。雲の間を飛行機が通って、真っ直ぐな白い線ができるんだよ。」息子との会話には、現実の中にある異次元に連れて行ってもらっているようで、どこか幻想的で、広いキャンバスに絵を描いているような気持ちになることがあって。実際には描けないから、言葉で表現してみる。そしてね、真っ白な心から“さくらいろ”にお母さんがなる時は、パソコンに向かっている時。優しい気持ちを誰かに届けたいと願う時。淡いさくら色には、白がちゃんと混ざってる。
母が送ってくれるようになったLINEのメッセージ。ハートのマークが多くなり、読む前から凹まされるかもしれないと警戒することは無くなっていきました。私の服装を見て、もっと女の子なんだから、華やかな服を着たらいいのにと何度言われたことか。シンプルがいいんだよ、華やかさはね、たまにでいい。なんだかあなたらしいわねと言われていた実家での会話。そんな母は意外と鋭く、ちょっとしたこちらの変化で、男性に会いに行くのか女友達に会いに行くのか、結構な確率で言い当ててきました。「今日は、ただの男友達じゃないわね。なんとなく分かるものよ。ちょっといつもより気合いが入っているから。」そう言われ、思わず笑ってしまいました。メイクの時間の長さ?ワンピースを着ているから?そんなことよりももっと内面の部分、ちょっとしたドキドキ感が自然と伝わったような気がして、それって母にも余裕が生まれたからなのではないか、そんなことに気づいてくれたことが娘として素直に嬉しかったことが思い出されました。「せっかくだから、楽しんでいらっしゃい。」こんな言葉一つで泣きそうになることを、もしかしたら幸せというのかもしれないと思った何でもない日。
「あなたには、大して何もしてやれなかった。全然物欲のない子だし、なんでも自分でやろうとするし、頼りない母親だったのは分かっているけど、何か結婚する時にやってあげたくてね。」そう結婚前に言われたことがありました。そして、名古屋に帰省し、連れて行かれたのは結婚式場。「あなたがもしかしたら地元で結婚するかもしれないと思って、少ない金額だけど、ちょっとずつ積み立てをしていたの。横浜で結婚式をするなら、それはおめでたいこと。でも、せっかくだから何か形に残したくてね。担当の方に相談したら、積立金を宝石にも変えられるって聞いたから、あなたに真珠をプレゼントしたいの。一生使えるから。」なんだか、堪りませんでした。泣くのはまだ早い。それでも、頬をつたわない涙は、母から言われた数々の暴言を少しだけ溶かしてくれたようでした。
その気持ちを有難く受け止め、カウンターへ。男性の担当者の方が、いくつもの真珠のネックレスを用意してくださり、綺麗な箱からパカッと開けてくれた時、私が大好きな『プリティ・ウーマン』の映画を思い出しました。娼婦だったヒロインがドレスを着て、実業家の男性に光り輝くネックレスをパカッと開けて見せてもらうシーン。女性にとってそれは宝箱のようなのだと、持っているだけでなく身に付けてこそ価値がある。それだけ、見合った女性に近づけるように、その努力を怠らない人が手に入れられるものなのかなと、そんなことを思いました。
目の前に並べられたいくつもの真珠。それを見て、迷わず母が選んだのは、一番粒が大きくて値段の高いものでした。「あなたはすぐに一番小さいものでいいとか言うの。だから、お母さんが先に決めたわ、いいわね。」思うように返事ができない私に担当者の方が伝えてくれました。「真珠は、何年経っても価値があります。いいものはいい。お母様の気持ちは、この先もずっと残っていきますよ。」・・・。「お母さんいいの?ありがとう。イベントの時は必ず使わせてもらうよ。」その時一瞬涙ぐんだ母の顔を忘れないでいようと思いました。「幸せになるのよ。」本当の母がここにいてくれた。
息子の幼稚園の入園式も、卒園式も、そして小学校の入学式も、母の真珠が首元に。純粋な白。時に光り輝き、少し傷があり、一粒一粒に自然な光が当たり、色が違って見える。そんな純白を思わせる色に私もなれるだろうか。